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「難しくて焦った?」
『いや、違うの』
笑い話のように語る2人を周囲は何も気にせず通り過ぎていくのにただ俺だけはどんどんと引き込まれる
『後ろの人が消しゴム落としたのに試験官気づいてなかったから、』
「え、まさかわざと落としたの?」
『うん』
「っ、」
消しゴム
後ろの人
落とした
完全に一致した言葉の数々に身体が反応し、思わず彼女の姿を確認した
そこには綺麗に整えられた黒髪に端正な顔をした女の子
確かに前に座っていた彼女も綺麗すぎる黒髪の持ち主だった
『鉛筆落とせば流石に音出るし気づくかなって』
ケロッと言ってのけるが大事だ
受験なんてこれまでの努力の全てが懸かっている場に他人を心配している余裕なんてない
寧ろ困って落ちてしまえばいいと思う人さえいるだろう
万が一手助けをするとするならよっぽど仲のいい人物
少なくとも知り合い以上のはずなのに___
「知り合い?」
『全然。名前もわかんないし結局顔も見てない』
「お人好しすぎない?」
俺も
彼女も
どちらもお互いのことを知らない
『ま、その程度落ちるんだったら学校生活もキツくなるから別にいいよ』
「あんたってそーゆーとこあるよねぇ」
『って言いつつ本当にやばいかもしれない』
ははっと笑うその笑顔は受験後とは思えないほど明るく、さらには夕陽に照らされてさらに輝かしく見える
今まで疲弊していた心が浄化されるような感覚が全身を支配し、家に着いた後も彼女の事が忘れられなかった
_______________
だから六叡館に入学して1番最初に探していたのはあんただったんだよA
入学してから廊下でその綺麗な黒髪を見つけた時どれほど心が踊ったか。
けどまだその時までは今みたいに“好き”なんて感情は無かった
学校やボーダーで見かけた時に姿を追ったり
広報を担当してると聞いてチェックしてみたり
ただの俺の一方的な興味と関心
でもそんな日常が幸をなしたのか。
_____彼女は俺と同じ隊に来た
最早奇跡としか言えない展開に浮き立つ心を必死に抑えつつ心の中で三輪に感謝し倒した
僅かな関わりしか無かったのに毎日のように傍に居れる日々
あんたの優しさと笑顔にどれほど俺の心が解かれたか。
俺の心を摩耗させていった奴らとは全く違う
奈良坂透と言う名の
気づいた時にはあんたが好きだった
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作者名:八月蝶 | 作成日時:2023年3月16日 16時