勿忘草の丘【オリジナル長編物語】

19話 教科書争奪戦 ページ21

昼休み。

それは、学校の子供達が自由に校舎内を動き廻る時間である。

だから、二組の人が一組に来ている事も珍しくなかった。

しかし、自分以外の教室の中に入るのは少しばかり抵抗があるようで、大抵の場合の入室は隣の

クラスの子が私達の教室の中に引きずり込まれてくる事が多い。

ちなみに、繫木Aは６の１。薄汚れた窓から差し込む暖かい光に照らされながら、教室の隅

の席でひっそりと小説を書くぼっち。

……仲良しの澪はトイレに行っているので、今は一時的にぼっちになっただけだ。



「ヤッホーAちゃん！ また国語の教科書貸して〜！」

「え……」



ふと予兆を察知していた頃、やはり麻里愛が来た。どうやらまた忘れ物をしたようで、反省の色

が全く感じられない顔を堂々と私に向けながら手を振っている。

このようなケースは、過去にも数回経験していた。

それに、彼女は私が「返して」と言わないと、大抵の場合は教科書の存在をすっかり忘れて返し

てくれない。それでいて彼女はあんな自由奔放な性格なので、結局言いそびれて授業中に先生に

注意された事も幾度かあった。

たとえ言ったとしても、また忘れられる事だって少しは……

私はそれがとても嫌だったから。忘れないでと言ったのに、聞いてくれなかったから。



だから、私は戸惑った。



今日は私の方も６時間目に国語の授業がある。５時間目と６時間目の短い時間に、彼女が教科書

をすんなり返してくれるとはとても思えない。

先生に怒られるのはもう嫌だ、成績だって下がってしまう。体育の赤白帽子ならまだいいけど、

教科書を貸したのがばれたら私は精神的に生きて帰って来れないだろう。

貴女の代わりに忘れた事にされた私の気持ちを、少しでいいから分かってほしい。

こうなったら、思い切って言ってしまおう。



「ごめん、私も６時間目に国語の授業があるから無理」

「えー、そこをなんとかっ！ お願いだよAちゃんー！」

「無理なものは無理だよ、諦めて」

「で、でも、この間はそれでも大丈夫だったでしょ？ 今回ばかりはー！」

「駄目！ もうやめてよ、さっさと帰って！！」

「………ひ、酷いよAちゃん。分かった、もう帰るね」



中々引き下がらない麻里愛に、当時の私はどうしようもなく苛立っていた。

そして、勢いのまま私は彼女を教室から追い返してしまい、その後どんな関係になるのかなど知

る由もなく、古傷でボロボロになっている机に突っ伏した。

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ラッキーカラー

あずきいろ

作者が今後使う名言(？)を作るコーナー（フラグではないはず）

私の一番大切な人は、貴方じゃない。

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