勿忘草の丘 ３.【オリジナル長編小説】

126話 ２０３号室恋愛相談所 ページ36

３日間の魔法使いの仕事の研修を前日に控えた日曜日。

今日は８月７日。青空の入道雲をみれば、そこには炎の様に照り輝く太陽が。

私は楽しみで仕方がない気持ちを落ち着かせるため、紗羅の住む２０３号室に来ていた。

明日の準備はもう万全だから、今日は遊びに来ただけ。

私が紗羅と恋バナ系の話をしている間に、いつもの喫茶店のバイトが終わって帰ってきた雷華さ

んが、若干低くなっている天井部分で頭をぶつけていた。



「いってぇー！？」

「騒がしいー！ Aが来てるんだから静かにしてよ！」

「まぁまぁ……」

「サーセンっす」



紗羅は毎度騒がしい雷華さんに対して御立腹。しかし、当人は全く反省していない。

この二人、明日から３日間一緒に仕事をするのに大丈夫だろうか。

まぁ仲はいい様なので心配はいらないが。

一応言っておくと今回の任務は大仕事で、日之影家の住人は全員目的地の北の雪山を越えた荒廃

した街に行かないといけないらしい。

あと、クラーレさんと付き添いのバトラーさんも。

戦力になる者はとにかく連れてけという訳だ。



「それでは恋バナに戻りたいと思います！」

「紗羅の好きな人って誰？」

「今言ったらとある勘違いをされかねない………」

「まさか幼児！？」

「それは絶対違うわ」



今は言えないというのだが、恋バナ以前にあっちの世界の人達は秘密が多すぎないか。

紗羅達が特殊型である理由も、ミリヤさんがアレンに頼んだ事も、アレン何処から来たのかも、

何故アレンが一矢と似ているのかという事も。

まだ知らない事が多すぎる。何故こんなにも隠すことがあるんだろう。

私達はもう部外者ではないのだから、言ってくれてもいいのに。

おっと、そんな暗い事を考えていないで、今は紗羅との会話を楽しまなければ。

もしかしたら、今のこの瞬間の出来事が忘れ去られてしまうかもしれないから。

この日常が、一瞬で奪われてしまうかもしれないから。


『貴方に戦いを止められるの？』


壮絶な未来からの警告が、私の頭脳の隅で小さく疼いた様な気がした。

勿論、何も知らない今の私にとってはなんともない頭痛だったんだけれど。



「Aに好きな人はいないの？」

「あ、当てられたら教えてあげなくもない」

「一矢でしょ」

「……はい」

「だとしたら、もう片方の彼もそれなりの覚悟は出来てるんでしょうね……」

「もう片方の彼？」

「大丈夫、いつか分かるわ」

「ふーん」

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