勿忘草の丘５.【オリジナル長編小説】 (ページ17)

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197話死神が憑く背中ページ17

【世羅視点】

階段を下った末、広場に着いた俺達は、さっきまで道案内をしていたアルメリア王女を見る。

清楚な感じの白いドレスを身にまとった王女は、何も言わずに道を開けた。

窓辺から差し出される太陽の光に照らされ、埃を被った金の王座が鈍く反射する。王宮の広場の

柱には大きなヒビが入っていて、どれも古いものばかり。煤で黒ずみ、所々傷んだカーペット。

王座の周りの石には、苔や蔦も生えていた。

おかしいな。一国を治める王族なら、普通は王座くらい掃除するだろうに。

王が死んでいたとしても、やっぱ王族の証だし…… 戦争で人手が足りないとしても、せめて埃を

はたいたりできたんじゃないか。

「世羅の言うとおりよねー」

「結局お前も、読心術使うんだな」

「仕返しよ。それにしても妙な話ねー」

「あぁ。王座は王族の威厳を表してるようなもんなんだから、国王が死んでいない限り……」

「………王は、何年も前に死にました。もう掃除する意味もないのです」

突然口を開いた王女は、特に表情を変えることなく、そうつぶやいた。

あー、そうか。やっぱり王は死んだのか。

不治の病か、偶然の事故か、暗殺か…… どれも王族であればありそうな話だが、この国の王に限

っては随分と妙な理由みたいだ。横を向く王女の顔が曇る。

「王は…… お父様は私の身体に宿る"悪い力"を封じる為、自ら命を絶たれました。確か、王国で

内乱が起こる直前の出来事でしたね。しかし、それだけでは私の中の"力"は収まらず……」

王女はそう言いながら、自らの右手から僅かな黒いオーラを出した。

この程度の悪い力なら、よくある奇病の一種だ。ケミストリーの町の外れに住むおばさんにも治

せるだろう。しかし、この王女に関してはわけが違う。

黒いオーラが全身に広がったように見えた瞬間、王女の背後に黒く大きな死神みたいなやつが出

てきた。黒い布切れをまとった黒い炎が揺れていて、澪を撃った黒ずくめの奴と似ている。

サイネリアは最近、"奴ら"と手を組んでるって噂もあったし……

まさかこいつ、ロックと同じ"あの場所"に連れ去られた時期があったんじゃ……！？

もし、もしもそれが本当なら、"あの器具"とかを見せれば怖がるはずだ。

でもまぁ、今そんな物を持っているわけねぇよな………

「ささ、暗い話はここまでにして…… こんな汚い所ですけれど、少しお話ししませんか？」

まさか、まさかなぁ……