勿忘草の丘５.【オリジナル長編小説】 (ページ38)

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218話乗馬するなら城の外ページ38

ひんやりと冷気が伝わってくる水路を、ゆらゆらと進む私達。

すぐ通り抜けられる小さな水路だったが、その間に結構休むことができた。

弓の手入れを終えたカエイが最後に船を降りると、さっきまで水の上に浮かんでいたはずの船は

跡形もなく消え去ってしまった。

突然の出来事に心の底からビックリして固まっていると、いつの間にか背後にいたカエイが私を

担いで、サミダレが出現させていたらしい馬の上にドサッと乗せてきた。

カエイは珍しくきょとんとした表情で私を見つめ、「アイビーの飯って不味いのか……？」とつ

ぶやきながら自身の馬の元へ向かう。

……私が周囲と比べて少食なだけで、アイビーが作るご飯は美味しいのだが。

そもそも、私の体重は中１女子の平均ぐらいで、いわゆる普通の重さ。

……ただ単にカエイが怪力なだけだと思うのだが。

「さてさて、A様。よろしければ、私がA様と共に乗馬いたしますわ。今夜は一時たりと

もA様から離れないつもりでございますわ」

「一緒に乗ってくれるのは心強いけど、一応乗馬したことはあるから…… ね？」

「は、初耳ですわ……！」

「で、でも、夜通し走ったことはないからさ。今日はアイビーに甘えちゃおうかな……？」

「お役に立てるのであれば何よりですわ！」

「わー、A様やっさしいですねー。アイビーは幸せ者ですねー」

「身にあまる幸福だと思えよアイビー、A王女がこの様な御姿を見せられることは滅多にな

いのだからな」

なんか後ろで緑と青がうるさいけれど、私とアイビーは何も聞こえないふりをして馬に乗った。

ちなみに、見た目が魔力全開の世羅の姿にそっくりなシネラは、近いうちに王城からつまみ出さ

れる予定だったらしい。一応私の臣下だし、彼とそっくりな理由も調べたいので連れてきた。

平和ボケ全開状態になった時のロックさんやアスターさんや勇助よりもボケっとしている、特に

何もない所でも派手にすっ転ぶようなシネラなんかに、たったひとりで馬の操縦を任せるなんて

言っても無理な話だ。正直、あの単独戦チート野郎の面影が全く感じられない。

仕方がないので、シネラよりもひとまわり背が高いサミダレに彼を任せることになった。

この辺の地形に詳しいカエイは、大きめの荷物を持って前に出る。

「A王女、昼間に私が調達してきた銃のこと、覚えてらっしゃいます？」

彼女は振り向きざまに、申し訳なさそうな顔で首を傾げていた。