勿忘草の丘５.【オリジナル長編小説】 (ページ35)

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215話希望から絶望へページ35

【アレン視点】

夜のそよ風が吹き抜ける河川を横切り、駆け足で西の路地へ向かう僕。

水の匂いが鼻先をかすめているから、多分明日は雨が降るだろう。

僕は今、現状報告と相談を兼ねてフェアヴァルト家に向かっている。

A達を正しいルートへ導く為に、何をどうすればいいかなんて、僕には分からなかった。

僕の身体に残っている一矢の記憶は、はっきり思い出せるものでも死ぬ直前の光景くらい。あと

の記憶は全部、その時の光景を見たりしていないと思い出せないんだ。

だから、未来予知の能力を持っているミリヤさんを頼るしかないっていうこと。

集合写真で思い出した僕の役目は、なんで忘れてたのか分からないんだけど……

「お邪魔しまーす！ミリヤさん、アレンですー！」

「ようやく来たね、アレンくん。それでは私の書斎に行こうか」

「はい！ ……あ、バトラーさんもすぐ帰って来られますよね？」

「大丈夫、心配いらないよ。日之影さんの家で９時頃までゆっくりしてこいと、彼が私の母国へ

行く前に伝えておいたからね」

「あ、はい！」

周りに本が敷き詰められた円筒形の書斎に入り、僕達はすぐそこにあった椅子に腰掛ける。

ミリヤさんのゆったりとした明るい赤茶髪が揺れ、さっきまで僕達を包み込んでいたはずの緊張

した空気は、いつの間にかほぐれていった。

書斎の机に置かれたウバの紅茶を、できたての美味しい状態で飲めるのは、未来予知の能力を持

つミリヤさんだからこそ出来ること。

僕達はちょっとした雑談を交えながら、今までのことを話していた。

「はぁ、本当に申し訳ないよ。私は未来予知だけが取り柄なのに、アルメリアの戦争を予知でき

なかったなんて…… 予知といっても内容がハッキリと分からない事が多いし、それに」

「まぁまぁ、僕の身体の記憶だって物凄く曖昧ですし、気にすることありませんって！」

現状報告を終えた後、真っ先にため息をついたのはミリヤさんの方だった。

ミリヤさんの未来予知では、詳しい部分は分からないけど、どんな事が起こるかはある程度知る

ことができる。いい事があるだとか、怪我をするだとか…… 程度は分からないけれど。

皆を正しいルートへ導く為に、ミリヤさんは僕を手伝ってくださった。

僕はどうなってもいい。みんなが全員生き残ってくれれば＿＿＿＿＿

「アレンくん…… 私の予知によると、どうあがいても誰ひとり助かる道はないみたいなんだ」

「………え？」