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7 気のせい ページ8




すっかり空は茜色に染まり、悟側の車窓の隙間から風が流れ込んでくる。今は専校に戻るために、補佐監督が運転する車で移動中だ。

悟は縁に肘をついて外を眺めながら話す。


五「傑。お前さー、アイツに一目惚れした?」

『は?!……今度はいきなりどうして?』

五「いやー芸能人並みに可愛かったじゃん。それに傑、初対面なのにすごく心配してただろ」

『んー、それは悟が見間違えただけだと思うよ』

五「…俺が見間違えるとでも?」


そう言って悟は私の肩をバシッと掴み、親指を立てて見せた。……そんなに分かりやすかったか?

確かにあの子とは初めてあったが、腕のなかで気を失ってるのを見た時は冷や汗が流れた。

それに、あの子の目が覚めてすぐに術式が使えることが判明したとき、何だか怖くなった。……あの子がこの界隈に足を踏み込むのか、と。


『……純粋に心配しているだけだよ。悟も手当てをした医師から聞いただろう?あの子の体の痣の事。あれは呪霊じゃなくて、特定の人間につけられたものだ』

五「そうだろな。それに多分その人間は、父親。よくある虐待ってやつだろ」


病院に運んで手当てをしてもらったあと、医師から聞いた。服で隠れる体の部位に痣が何ヵ所も…と。

しかも、“娘さんが怪我をした”とあの子の父親に連絡をしたら、“仕事してんだから後にしろ”と言って一日経っても彼女に面会しに来なかった。

……分かりやすく、父親の虐待だろう。あくまでも可能性だが。


五「ちょうど良いじゃん。アイツが呪術を学びに高専に来れば、虐待されないだろ。本人もそれを望んでたし一石二鳥」

『それは…そうだが』


虐待から救えるのは良いことだが、虐待よりも血生臭いこの(・・)界隈に引き込むのも気が引ける。

……自分でも、どうしてあの子の事を考えているのか分からない。でも、あの子を見ると切ない気持ちになる。


『でも……案外悟の言ってることも、当たってるかも知れないな』

五「!……冗談を真に受けんなよ。やめとけ、傑。愛より歪んだ呪いはない」

『分かってるさ』


いきなり声のトーンを変えて、あからさまに呆れたような顔をする悟。私はすぐに返答をして、窓の外を見た。

──あの子を守らなきゃいけない。

なんとなく、そんな使命感に襲われたが、それが懐かしいような気もした。

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作者名:無名 | 作成日時:2021年1月2日 3時

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