臆病/錦戸 ページ6
「付き合ってみる？」
n回目のこの言葉。もう飽きたわ！
「ほんと錦戸くんはそれよく言うよね！」
わたしの片想いの相手錦戸くん。
付き合ってみる？なんて嬉しい言葉のはずなのに、もう3年の仲だから真意もわかる。
「やって俺とAは気があうやん？」
さてはこいつ、キープのお姉さんに逃げられたな。
いつもそうだ。キープのお姉さんが減るたびにわたしと付き合おうと言ってくる。
そんなの知ってる。冗談ってことくらい。
「でも付き合ったらお互いこんなやからすぐ別れそうやな。やめとこ。」
それもn回目。定番の流れ。
サークルの同期で一番仲のいい錦戸くんだけど、みんなの前でもこんなこと言うからほんとにやめてほしい。
ほらまた。
「俺とA？お似合いやろ〜元カノやねんあいつ〜さっきも3秒くらい付きおうたよ」
錦戸くん狙いのサークルの後輩にわたしのこと盾に使うのやめてくれないかな？
女の子たちの目線が痛い…
飲み会の度にそう言われている。
わたしがこの冗談にずっと付き合ってるのは、関係が変わる怖さと、ずっとわたしが彼の中で生きている喜びで。
結局わたしは踏み出せない臆病者なんだ。
「あんたいつまで錦戸くん呼びなの？知ってる？亮ちゃん、あんたのことどう言ってるか。」
サークルが一緒の同期に突然言われる。
錦戸くん呼びは直らない。3年間ずーっとこれだもん。
「ほんまは結構俺好きやねんって、あの子達に毎回言うのよ。だから、あの子たちは早くくっつけばいいのにって言ってるのよ？もう、亮ちゃん、好きだよって言っちゃえばいいのに。」
亮ちゃんって呼べるあんたが羨ましいよと思いつつ、そんなことを言っているなんて想像もつかなくて。
でも、臆病でも、名前で呼べなくても、大好きなことに変わりはない。
あとサークルも1年しかない。
「錦戸くん、まじでうちら付き合わない？」
真面目な顔して言ってみる。自分から言うのは初めて。
「何言うてん……」
ちょっと顔を赤くしながらツッコミを入れる錦戸くん。
「わたし、結構錦戸くんのこと好きだよ？」
ああ、きっとわたしも今顔真っ赤。
酔った勢いってすごいな。
「もしかしたらうまくいくかもやし…うん…付き合ってみる…か…？」
そう言って宴会の隅で静かに手を繋ぐ。
ああ、やっぱり大好きだ。
……END……
(最初に付き合おう言うたの覚えてる？)
(そん時から好きやで。)
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作者名：ちい | 作成日時：2017年9月24日 13時
