あまい香り (ページ1)

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貴方side

雨上がりの夜空は何だか低く感じる。

未だどんよりと重い雲は私の心を表しているようだ。

気まぐれで覗いた窓の外の景色に少し落胆して背を向ける。

窓に背を向ければ必然的に見たくないものまで視界に入って来るもので、ベッドには男物のスウェット、棚の上には吸ったこともないタバコ、開きっぱなしのクローゼットには、、、、いいや、辞めとこう。

ひとつひとつに目を向ける度に喉の奥に何かが詰まったような、込み上げてくるような感覚に陥る。

3日前。
私は同棲していた彼氏と別れた。

いいや、正式には私の家に転がり込んでいた私の好きな人が出ていった、という方が正しいだろう。

所謂、『クズ男』という人にいいように使われていただけだったのだ。

「あ〜しんど、、、」

思わず口から溢れた言葉を拾うように、部屋には着信音が響いた。

「はい。桜井です。」

「おつー！」

元気な声の主は、人気YouTuberで私と中学で先輩だったテオくん、基おおちゃんだった。

テオ「一緒にご飯食べよー！」

「分かった。支度するね。」

テオ「1時間後に家の前に迎えいくね！」

「ありがとう。」

急な誘いに、驚くことも無い。
おおちゃんは少し時間が開けば『ご飯食べよー』やら、『ドライブ行こー』やら、唐突に連絡をしてきて私を外に連れ出す。

私が落ち込んでるのを感じ取ったようなタイミングだった。

約束の時間まで、軽い化粧をして髪を整えて服を着替える。
あちらこちらに散らばる彼(・)の痕跡に、一瞬体が強張りながらも支度を整える。