恋愛未遂 (ページ8)

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あのあと、話しは教室に忘れ物を取りに来たクラスメイトによって流れてしまって、今の状況に至る。

しばらくはなんで、自分の気持ちを素直に言わなかったんだろうって後悔したけど、今となっては金メダリスト相手にいい思い出。
それに、なんだか、夢を見てたみたいで、ほんとにそんなことあったっけ？という状態。

「かなちゃん、ごめん。トイレ行ってくるね」

私はテーブルにグラスを置く。

「あぁ、うん」

もともと、こういうパーティーとかきらびやかなことがもともと得意じゃなかった。
休憩でも入れないとずっとはいられない。

会場から抜け出すと、前に若い高校生のスケーターの二人組がきゃあきゃあと騒ぎながら歩いていた。
追い越すのも咎められて、歩調を緩めてついていく。

「羽生さんまじでかっこよかったね」

「顔小さい！」

こうやって、きゃあきゃあと騒がれる対象になってしまって、多分はたからみたら私もその一部なんだよな。

こういうの見るとふいに空しくなる。

私はその子たちから距離をとりたくて、足を止めた。

もうどこにもいないのだ。

一緒に練習してくれたゆづくんという人は。

ノートを貸したゆづくんという人は。

いるのはオリンピック王者の羽生結弦。
いくら、私がゆづくんを求めてもいるのは羽生結弦だけなのだ。

今日、会ったせいで嫌というほどそれを痛感させられた。

「かえろ…」

会場に荷物を取りにかえろうと方向転換する。

それがまずかった。

追い討ちをかけるように、前から羽生結弦が歩いてきた。

逃げようにも逃げられない。

羽生結弦の目は一切私を捉えてなくて、このまますれ違ってゆくにすぎないだろう。

羽生結弦には私なんか、自分をリスペクトする人間のたった一部なのだから。