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なにも、逃げることもなかったんだろうけど…。
そう、今になれば充分反省できる。
だけど、桃子はポーカーフェイスとか平常心とかそういうのが一番苦手。
できない。
だから、思ったことが全部顔に出ちゃうし、口にも出ちゃう。
泣いてる顔を見られたくなくて、なんとなくうつむく。
田舎育ちで歩くのが早くないから、どんどんみんなに追い越されていく。
「いって!」
肩あたりに軽い衝撃が走る。
どうやら人とぶつかってしまったらしい。
「ごめんなさ…」
ほぼ条件反射で顔を上げた。
やばい。
気を抜いたら声に出てしまいそうだった。
いかにも柄の悪いお兄さんとぶつかってしまった。
都会の人は怖いから怒られるかもしれない。
「ちゃんと前見て歩きなよー」
怒っているわけではないようで安心は安心だけど…。
「え、てかめっちゃ、可愛いね」
ちょっと違う方向にまずいことになってる?
「一人?暇?」
矢継ぎ早に発される男の言葉に気圧されながら少し後退りする。
桃子、知ってる。
これ、ナンパってやつだ。
ドラマとかで見たことあるけど、ほんとにこんなことってあるんだな。
って、感心してる場合じゃなくて…。
「だったら、遊ぼーよ」
なれてなさすぎて、「あ…」とか「え…」とか情けない声しかない。
「だめ?」
なんか怖い。
やっぱり、都会って怖い。
目頭が熱くなるのを感じる。
「すみません。こいつツレです」
そんな聞き覚えのある声が投げ掛けられる。
「ひ…日野先輩…」
気づけば、肩を引き寄せられ、日野先輩の腕に収まっていた。
日野先輩がイケメンだったためか、中途半端なチャラ男は顔をひきつらせて、「あーね」なんて勝手に納得しながら歩き出す。
悔しいけど、今回ばかりは助けられた。
「はぁー」
後ろから、日野先輩の盛大なため息が聞こえてまた涙が滲む。
安心したって涙と日野先輩なんかに助けられてもっていう涙。
それからダメな自分にたいする悔し涙。
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作者名:女だぬき | 作成日時:2019年7月20日 4時