意地悪未遂 / 日野龍樹 ページ1
「桃子、下手くそ」
助走のときからなんとなく上手く行かないような気がしてた。
ジャンプの踏切に入った瞬間、その予感は確信に変わった。
案の定、バランスを崩して回転はほどけ、派手に尻もちをついてしまった。
気づけば氷の冷たい感触とともにそんな吐き捨てるような言葉を浴びせられていた。
もう10回は跳んだのに、苦手なトリプルルッツは一度も降りられない。
その時点ど涙腺はギリギリの状態だったのに、その言葉はアウトだ。
「やべ、また泣きそうなんだけど」
日野先輩は大きな目をわざとらしく丸めた。
この春から名古屋の中京大学にフィギュアスケートのスポーツ推薦で入学した。
中京大学はオリンピック選手を何名も排出するような名門。
島根の田舎でのんびり練習してきた私にとっては大きな環境の変化で毎日パニックの連続だった。
初めての都会、新しいコーチ、一人暮らし。
中でも、この二個上の日野龍樹先輩には手を焼いていた。
他のことはもう3ヶ月もすれば大分、順応できたのだけれど、日野先輩にはいつまでたっても慣れない。
ハーフらしく、堀の深い整った顔立ちをしているため、他の女子たちは「イケメン」と騒ぎたてていたし、面倒見が良いとか優しいとか良い評判ばかりを聞く。
だけど、桃子はそうは思わない。
どんなに顔が良くても人をバカにしてくる人は最悪だし、ましてはいっつも余裕かましてそれを鼻にかけてるようなタイプなんて御免だ。
「なんか、なまってね?」
「田舎くさ」
「下手」
「ちび」
こんな小学生みたいな悪口をねちねち聞かされる人なんて大嫌いだ。
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作者名:女だぬき | 作成日時:2019年7月20日 4時