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事実が、受け止められなかった。
信じたくなかったのだ。
「…太宰さん、」
「敦くん、私ね。最初から彼女の声が聞こえてなどいなかったのだよ」
全ては私が作り出した幻覚。
そして幻聴。
失った事実から目を背け、彼女がそこにいると思い込み、そう振る舞った。
判っていたのに、Aが生きていると思いたかった。
探偵社の皆が、街の人々が合わせて振る舞ってくれることに甘えた。
「…彼女は死んだんだ。私のミスで」
握った拳が震えていた。
織田作を失って、安吾と別れて、マフィアを抜けて。
残った最後の、古くから私を知る人物。
守りたかった、私の大切な人。
「…確かに、Aさんは亡くなりました」
敦くんの呟きに、耳鳴りがした。
突きつけられた現実に目眩がした。
「でも、」
彼は私の手を握っていた。
事あるごとにAが私にした、それと似ていた。
「絶対に太宰さんのせいだなんて云わせません!」
敦くんの大きな声に、周りの闇が取り払われるような感覚になった。
私の代わりに泣いている彼が、私以上に悔しそうだった。
「Aさんは僕たちの前で死んでしまったんです。
誰も、彼女を助けられなかったんです」
あの時、社員の誰もがそこにいた。
誰も、届かなかったのだ。
「皆悔しかったんです。だから、この後悔は皆のものです」
もしかすると、私が見えているふりをする事で、安心感を得ている人がいたのかもしれない。
彼女を死を、信じたくない人がいたのかもしれない。
「僕はあの日のことを忘れません。守れなかったAさんを忘れません」
「忘れない、か、」
敦くんの真っ直ぐな視線が私の視線と交差した。
これが彼女が大好きだった、他人の事を想う、優しさを持った目。
「忘れなければ彼女は心の中で生き続けるなんてそんな事云いません。
でも、僕たちが忘れなければAさんが生きていた事実は消えません」
死んだ者は生き返らない。
それでも。
Aがいたという事実は、この世に留まり続けるのではないだろうか。
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桜花 - 心に、なんかグッときました…今目がなんかうるっと… (2018年6月25日 15時) (レス) id: abc4f31fe6 (このIDを非表示/違反報告)
らててん - 短いのに胸が締め付けられます、、これはなんか切ない、泣けますね、、 (2018年6月25日 1時) (レス) id: 112e01abc9 (このIDを非表示/違反報告)
実来(プロフ) - 短いのに、めっちゃ泣けます!作者さんすごいです! (2018年6月24日 22時) (レス) id: ab68eef700 (このIDを非表示/違反報告)
カラナ(月華) - た、短編小説なのに、ものすご〜〜〜〜く泣けた〜!(T^T)う、う、(嗚咽) (2018年6月24日 21時) (レス) id: 591d6b4fdb (このIDを非表示/違反報告)
インク(プロフ) - 太宰さんはシリアスだと使いやすい、と。〆(゚▽゚*) メモメモ (2018年6月24日 20時) (レス) id: 2fb63eb0d6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ろろみや。 | 作成日時:2018年6月24日 19時