20:人助けとは。 ページ20
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ぱちん、と乾いた音が社内に響いた。
そうなると判っていたのに、誰も止めなかった。
「何で叩かれたか判るかい?」
『…何故ですか』
叩かれたAは頬を抑えて、与謝野の問いに小さく答えた。
彼女だって、好きでAを叩いたわけではない。
社員の気持ちを代弁して、だ。
「アンタがした事は褒められる事じゃないよ」
『如何してですか』
Aは真っ直ぐに与謝野を見た。
太宰はその目を知っていた。
熱意を持ったその視線。
彼女は自分がした事を正しいと思っている。
『私は多くの人を救いました』
「あぁ。それは確かだよ」
『誰も殺しませんでした、誰の手を煩わせる事もなく一人で全て片付けました。なのに何故です?』
彼女がマフィアにいた時は、単独行動をするような人間ではなかった。
自分も仲間も、危険に晒すような事は絶対にしなかった。
だが、今は違う。
「妾が云ってるのはそこじゃない。自分の命を大事にしなって事だよ」
『私は普通の人より簡単には死にません。それに多くの人を救えるなら、私の命なんて安いですよ』
太宰はゾッとした。
目の前にいる彼女は、二年前とほとんど変わらないのに、中身は全くの別人のようだ。
Aは人の命を軽んじるような人間ではなかった。
勿論、自分の命も。
「A、善く聞きな」
与謝野はAが人助けに執着していることに気づいている。
だが、彼女の為にも云わなければならなかった。
「アンタがした事は人助けではない」
重い、言葉だった。
ましてや、ずっとそれが正しいやり方だと思っていたAにとっては。
『っ、』
「あ、Aちゃん、」
Aは敦の制止の声に耳を貸すことなく、走って出て行ってしまった。
くしゃり、と与謝野は自分の髪を掴んだ。
「ちょいと、云い過ぎたかい?」
「いいえ。あれくらい云わなければ、あの子には伝わりませんでしたよ」
太宰はそう残し、静かに社を出て行った。
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河瀬(プロフ) - 久しぶりに心を締め付けられる作品を拝見しました…!もう涙腺崩壊です(つД`)ノありがとうございました!! (2018年12月28日 10時) (レス) id: 4d532e1b9e (このIDを非表示/違反報告)
かん。 - コメ失礼します! 凄く良作で文才が素晴らしいですね…文才わけて欲しい位です(笑)感動し過ぎて涙が止まらなかったです!! 素晴らし過ぎて語彙力無くなりました… (2018年6月17日 21時) (レス) id: 1ce36ab38c (このIDを非表示/違反報告)
夢らら(プロフ) - 完結おめでとう! (2017年11月12日 13時) (レス) id: 3821086925 (このIDを非表示/違反報告)
ヤマダノオロチ(プロフ) - 完結おめでとうございます!お疲れ様でした。すごくメッセージ性のあるお話で、心に残りました。とても素敵な作品をありがとうございました。 (2017年11月12日 7時) (レス) id: b2832ff97e (このIDを非表示/違反報告)
ろろみや。(プロフ) - どんぐりさん» 嬉しいコメントありがとうございます!そう言って頂けると感激して泣きそうです!(笑) (2017年11月12日 1時) (レス) id: fe8b589f10 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ろろみや。 | 作成日時:2017年10月31日 0時