検索窓
今日:3 hit、昨日:0 hit、合計:66,057 hit

. ページ8

.

太宰は何も云わなかった。

確証のない、予感はあった。
だからこそ、驚かなかったわけではないが、すんなりと受け入れられたのだ。

『この世界は異能という奇跡で溢れています』

「君の世界は?」

『私の世界にはそんな特別な力はありませんよ。でも、だからこそ、この世界より頻繁に "奇跡" が起こるんだと思います』

Aは屋上からヨコハマを見る。鳥や飛行機が空を飛び、人々は自由に街を歩く、普通の風景だった。
しかし彼女にとってそれは、どうしようもなく愛おしいものだった。

『戦争の絶えない世界でした。当時起きていたのは、世界大戦』

「……君は、そこで闘っていたのだね?」

『はい。私の部隊は少し特殊でした。頭脳派の二人と肉体派の私で構成された、たった三人の少数部隊です』

Aは表情を変えることなく、続ける。

『国の戦況は思わしくありませんでしたが、私たち三人はうまくいっていたんです。

……でも突然、一人が死にました』

「戦死?」

Aは力なく首を横にふる。

戦死でないならば一体、とは思いつつも、太宰には思い当たる節があった。

『戦死ならば諦めもついたはずなんです。そういうご時世でしたから。
でも、彼は違った。

……彼は自分が死ぬことばかりを考えていました。
それをわかっていたからこそ、私は戦場で彼を失わないように戦い続けました』

太宰は、Aの手に、血が滲みそうなほどの力が入っていることに気づいた。

きっと彼女は後悔している。彼を、救えなかったことを。

太宰が強く握られた拳の上に手を置くと、Aは驚いた顔をして、少しだけ力を緩めた。

『私の努力は、ただの迷惑だったんです。だから彼は、自分で自分の人生に終止符を打った』

身に覚えのない話なのに、太宰には、この話が自分のことのように思えた。

"彼" の気持ちがわかるような気がした。

「その彼が、君の世界の私なのだね」

はい、と掠れた声を出しながら、Aは今にも泣き出しそうな顔で、笑った。


.

.→←.



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (94 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
24人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

- 感動しました!完結おめでとうございます! (2018年11月18日 15時) (レス) id: 1914631717 (このIDを非表示/違反報告)
ANN(プロフ) - 感動しました。感動しました。完結おめでとうございます(*>∀<) (2018年11月18日 15時) (レス) id: 0ad3bbb3df (このIDを非表示/違反報告)
あーやんの向日葵畑(プロフ) - 完結おめでとうございます(^-^) (2018年11月18日 13時) (レス) id: e1d97e38a0 (このIDを非表示/違反報告)
あーやんの向日葵畑(プロフ) - すごい、こんなに感動したのは久しぶりです。 (2018年11月18日 13時) (レス) id: e1d97e38a0 (このIDを非表示/違反報告)
琴吹(プロフ) - 最高でした。 (2018年11月18日 12時) (レス) id: 0c8e621b62 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ろろみや。 | 作成日時:2018年11月17日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。