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『やっぱり、頭いいですね!』
「あれくらいできないと、今後やっていけないよ?」
『え、じゃあ私、もうすぐクビ?』
その日、太宰とAは二人で歩いていた。ちょっとした謎の現象が発生したとの依頼だったが、太宰はそれをすんなり見抜き、Aはそれに感服していたのだった。
街は今日も、平和だった。
名前を呼ぶ声が聞こえ、太宰は隣にAがいないことに気がつく。彼女は少し離れたところで立ち止まっていた。
『ここ、寄ってもいいですか?』
「うん、構わないよ」
Aは嬉しそうに微笑んで店内に入る。
太宰も、彼女の後に続いた。
目を見張る数の本。本屋であるためあたりまえのような気もするが、彼女は目を輝かせていた。
「本、好きなのかい?」
『好き、だったんだと思います。今の私がこんなにワクワクするんだからきっと、前の私も』
記憶が有ろうと無かろうと、根本は変わらない。Aという人物そのものは、何も変わっていないのだろう、太宰はそう思った。
そして数十分の時間が過ぎ、数冊の本を手にしたAと太宰は、再び探偵社に向かって歩き出した。
『太宰さんのお好きな本は何ですか?』
「完全自 殺」
『へぇ』
「興味ないと思ったでしょ」
太宰の言葉に、Aは笑った。
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気づくと、夕暮れだった。
太宰にしては珍しいことだが、決して仕事をサボっていたわけではない。こんなことになったのは主に、Aに原因があった。
離れたところで子供の泣き声が聞こえた。すると彼女はすぐさま走り出し、その子に駆け寄ったのだ。
アイスを落として泣いている子には、同じものを買って、差し出した。迷子の子を連れて、母親を探し回った。喧嘩をしていたわんぱく少年を仲直りさせた。
そんな人助けにより、時間はあっという間に過ぎていた。
「Aは子供が好きなんだね」
『ええ、そうみたいです。ところで太宰さん』
全然関係ない話なんですけど、と彼女は云い、太宰の方に振り返った。
『私、ひとつだけ思い出したんです』
「思い出した?」
夕日の光で彼女の赤毛は一層綺麗に見えた。
『私、小説家になりたいと、思っていたんです』
Aの姿に別の誰かが重なり、太宰は目を細めた。そこには誰もいない、いるはずはない。彼の目の前にいるのはたった一人、Aという少女だけなのだから。
「……良い、夢じゃあないか」
『ふふ、そうでしょう?』
太宰の微笑みに、Aは自慢気にそう云った。
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碧 - 感動しました!完結おめでとうございます! (2018年11月18日 15時) (レス) id: 1914631717 (このIDを非表示/違反報告)
ANN(プロフ) - 感動しました。感動しました。完結おめでとうございます(*>∀<) (2018年11月18日 15時) (レス) id: 0ad3bbb3df (このIDを非表示/違反報告)
あーやんの向日葵畑(プロフ) - 完結おめでとうございます(^-^) (2018年11月18日 13時) (レス) id: e1d97e38a0 (このIDを非表示/違反報告)
あーやんの向日葵畑(プロフ) - すごい、こんなに感動したのは久しぶりです。 (2018年11月18日 13時) (レス) id: e1d97e38a0 (このIDを非表示/違反報告)
琴吹(プロフ) - 最高でした。 (2018年11月18日 12時) (レス) id: 0c8e621b62 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ろろみや。 | 作成日時:2018年11月17日 23時