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『見てください太宰さん! 谷崎くんが名刺作ってくれました』
「へぇ本当だ。下の名前だけだから芸名みたいだね」
『私の一枚あげますから、太宰さんの一枚ください!』
あれから、Aは太宰に懐いた。彼女には仕事に対する意欲を含め、太宰に似ている部分などない。なのにも関わらず、彼らは何故か意気投合していた。
太宰も、本人が気付いているかはわからないが、Aが社員になってから仕事をサボることが減ったように見えた。多少だが。
『社長にお願いしたら、事務員から調査員に昇格しました』
「それ昇格なの?」
『個人的には昇格です!』
与謝野はAの様子を見て笑っていた。記憶喪失になった原因はわからないし、それを彼女が治すこともできない。
ただ、記憶を失う理由など、決して良いものはない。事故などの物理的衝撃にせよ、大きな精神的ストレスにしても。だからこそ、今彼女が笑って過ごせているだけでも僅かながらの幸せではないのかと、与謝野は思うのだった。
『与謝野さん?』
「何だい?」
Aは太宰との会話を終えると、その場にいた与謝野に声かけた。
調査員の殆どが依頼に行っている昼下がり、社内はいつもより少し、静かだった。
『この前谷崎くんに与謝野さんの異能のこと聞いたんです。彼青ざめてましたけど、どんな怪我でも治せるんですよね?』
Aは興味津々という様子で与謝野に問う。その姿は外見よりもいくつも幼く見えた。
「瀕死の重傷じゃなければ治せないけどね」
『それって、奇跡ですね!』
与謝野は驚いた。異能力の存在を知っている彼女にしてみれば、これは普通の話。異能は所謂、何でもありの事象。身近にありすぎて、そんな風に思ったことはなかった。
自分の異能が奇跡ならば、太宰だって国木田だって、ここの社員たちの異能も全て同様である。身近で奇跡が起きすぎているのではないだろうか。
『人は皆、死に収束しますから。死ぬしかない人がまた普通に生きられるのは奇跡です!』
「はは、そうかもしれないねェ」
結局のところ、人間は同じ "死" という結末に収束し、終息する。その道を他者が捻じ曲げることなど不可能である。
だからこそAは言うのだ。
それができるということは奇跡に他ならないのだと。
与謝野が笑ったのを見て、Aも満足そうに笑った。
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碧 - 感動しました!完結おめでとうございます! (2018年11月18日 15時) (レス) id: 1914631717 (このIDを非表示/違反報告)
ANN(プロフ) - 感動しました。感動しました。完結おめでとうございます(*>∀<) (2018年11月18日 15時) (レス) id: 0ad3bbb3df (このIDを非表示/違反報告)
あーやんの向日葵畑(プロフ) - 完結おめでとうございます(^-^) (2018年11月18日 13時) (レス) id: e1d97e38a0 (このIDを非表示/違反報告)
あーやんの向日葵畑(プロフ) - すごい、こんなに感動したのは久しぶりです。 (2018年11月18日 13時) (レス) id: e1d97e38a0 (このIDを非表示/違反報告)
琴吹(プロフ) - 最高でした。 (2018年11月18日 12時) (レス) id: 0c8e621b62 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ろろみや。 | 作成日時:2018年11月17日 23時