【ヒロアカ】はなむけ (ページ4)

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希望にあふれた幼児期。
絶望した小学生期、受け入れだした中学生期、諦めた高校生期。

高校生になって私はヒーローになることを拒むのをやめ、諦めていた。
だけど一度だけ、泣いたことがある。
あれは多分、一年のはじめの方だったと思う。

「泣きてぇなら泣きゃあいいじゃねぇか」

そう言ったのは、かつきくんだった。

体育祭に出ることもなかった私は、かつきくんとの帰り道。
辛くて辛くて、どうすればいいのかわからなかったのだ。

『……泣いたら、かつきくん、怒るじゃん』

「怒んねぇよ。見なかったことにしてやっから」

彼は私の事情を詳しく知っている1人だった。

だから、だろう。
だから私は彼の隣で年甲斐もなく泣いた。

体育祭を観客よりも近いところで見ていた。
みんながどれほどまで本気かわかっていた。
ヒーローになることを願っていると、痛いほど思い知らされた。

彼らは夢を叶えるために努力している。
自分自身で掴み取るために着実に前に進んでいる。
同じ歳のクラスメイトがただただ輝いて見えた。

なら、私はどうなのだろう。
私は努力しなくたってヒーローになれる。
立ち止まったままだって彼らの先を行ける。

簡単な道を行く自分が情けないと思ったわけではない。
私は自分が哀れに思えたのだ。

これからこの学校で生活していく自分。
友人たちと分かり合えない自分。
1人だけ、ヒーローへの道が用意されている自分。
その全てが、自分のことなのに可哀想に思えてしまった。

『……私、ヒーローになりたくないよ…………』

「……」

こんなこと、いずくくんの前では言えなかっただろう。
それに、かつきくんに言うのも失礼だとわかっていた。

だけど彼は、私の言葉を黙って聞いていてくれた。
たまには簡単な相槌すら打ってくれた。

大人たちは私がヒーローになることをあたりまえだと思っている。

ここにいる私を、誰も認めてくれない。
誰も、褒めてくれない。

『私は、ずっと、言われた通りにしてきたじゃない……』

「……そうだな」

個性を隠すのもあたりまえ。
雄英に入学するのもあたりまえ。
ヒーローになるのもあたりまえ。
ずっとずっと、言われたことに文句も言わずに従ってきた。

一度だけ本音を吐露して泣いた高校生の頃。
あの時は、誰かに話を聞いてもらいたかったのかもしれない。