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2人は外に出て、歩きながら話をしていく。
「俺、連絡し続けたのにどうして無視したの」
「メールする余裕がなくて、ごめん」
先を歩く舞田の顔は、後ろからついていく東海林には見えない。しかし声色だけでもわかる。怒ってはいない。ただ、苦しくて辛い声だ。
「……それから、どこか行っちゃった」
「ごめん」
彼はただ謝るしかなかった。
「先生、やってたんだね」
「日本史専攻のね。楽しかったよ」
ここでふと教師をやっていた頃を思い出す。
勉強を教えること、生徒たちと交流すること、仕事が多くて辛かったこと。
たくさん経験をしてきた。だけど、東海林は変わった。
「でも、どうして」
「きっかけは、そうだな。母さんが亡くなったこと」
「……え」
「病気だったんだ。寿命も残りわずかって言われてたし覚悟はしていた」
そう。ある日、東海林の母は病気で倒れたのだ。それから入院と退院を繰り返していたが、重症化してしまった。
「見た目は元気そうだったんだけどね。息を引き取る直前までテレビ好きの母は番組に出ているアイドルを見て“キラキラしてて楽しそう”って言ったんだ」
これが、動くきっかけとなったのだ。家族の言葉がとてつもなく重いことはわかっている。
そして、“これ”が昔の友人と再会する鍵になっていた。
「類」
「…っ」
いつの間にか2人は、人気のいない河川敷にいた。
後ろからの東海林の声を聞いて、舞田の肩はビクッと上がる。
「また会えて嬉しいよ」
「!」
「これからもよろしくね」
「う“ん”」
泣くことは我慢してなくていい。
舞田は後ろを振り返って、東海林にはっきりと顔を見せた。
「やっぱり類の笑顔が1番好きだな」
◇
夜になって、S.E.Mの3人と東海林は居酒屋に来ていた。
4人とも成人男性ということで、飲み物やおつまみをどんどん頼んでいく。
「紹介するよ!my friend ミスターしょうじ!」
食べ物が来るまで、東海林の隣に座っていた舞田は彼の紹介をする。
「S.E.Mの皆さん、改めてよろしくお願いします。それと類、昔みたいに廻って呼んでよ」
「いいのかい!?」
「あぁ」
どうやら2人は仲直りをしたみたいだ。
「仲直りできたみたいですねぇ」
「うむ。そうだな」
「類!それ、俺のからあげ!」
「んむっ!」
「うわー!だ、大丈夫か類!?」
東海林はグループとは異なる活動をしていくことになるが、彼らとの出会いが面白い化学反応となるだろう。
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作者名:のん | 作成日時:2023年8月4日 20時