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確かあのときは昼過ぎだったと思う。まだアルバイトをしていた時期だったので、午前中に入っていた仕事を終えてバイト先に向かっている途中だった。
「……あれ」
俺は公園の横を通り過ぎるときに、近くから中性的な声が耳に入る。公園にいる高校生か大学生くらいの男からだとすぐにわかった。
「綺麗な声ですね」
「あ、ありがとうございます……!」
気づいたときには俺から彼に声をかけていた。
当時の彼は女性のように髪を少し伸ばし、笑顔が眩しかった。
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「実は僕、声優になるという夢があって養成所に通ってるんです」
「そうなんですね」
流れのまま公園にあるベンチに座って彼の話を聞くことになった。俺にとって身近な仕事のことを話し始めたから何かの縁かと思った。
「実家暮らしで母がいるので1人になる場所を見つけてここに……って初めて会ったあなたに自分語りを……すみません」
「大丈夫ですよ。……僕、声優やってるんです」
「えぇ!?」
純粋に頑張っている姿を見て、まだ未熟だけど自分のことを告白した。すると彼は一瞬驚いたが、口元に手を当てて落ち着きがない。
「も、もしかして」
「うん?」
「聞いたことのある声だなって思って、違ったら失礼だと思って止めてたんですけどまさかのご本人!?」
「俺のこと知ってる?」
「榎木淳弥さんですよね!」
「正解」
と、彼は俺が出演している作品名やキャラクター名を口にした。某カードゲーム作品とか。
「何かの縁ですね」
「えー!もう縁どころじゃない!すごい!運命ですね!」
「あははっ。はしゃぎすぎ」
俺が話しかけなければ、この縁はなかった。普段しないような行動をして後悔することがあればその逆もある。……今回は良かったかもしれない。
「そういえば君の名前は?」
「僕の名前は有栖川Aです!よろしくお願いします!」
「よろしくね」
このときは、彼が運命だと言っていたけど俺はそう感じられなかった。もちろんマイナス的な意味ではない。
「……運命じゃない気がする」
当時はまたAくんと会うんだろうなと感じていたものの、この日を境に有栖川Aと会うことはなかった。
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作者名:のん | 作成日時:2023年8月4日 20時