88：じゃあいっそのこと、する？ ページ44
「死ぬかと思った」
「お疲れ様」
はぁ、と呼吸が上がって運転席に座った私はつい先ほど榎木家にお邪魔していた。
なぜ？と思うかもしれないが、“あれ”が出てからそのままにするのもどうかと思い、私自ら挨拶をしたいと行ったのだ。
「なんか、」
「ん？」
「家族って良いですね」
もちろん私の家庭事情も話した。今日は挨拶だけだから少ししか話すことができなかったけれど、とてもお優しい方だった。
兄弟の話になり、あ淳弥さんって上にいたんですねいいなぁという話もした。
私にも兄弟がいたら少しは楽だったのかな、なんて考える。
「付き合ってます、で挨拶に行くのもしかして重たかった…？」
そして突然我に返る私。快く迎えてくれたが、あまりにも突然だったし……でもオフの日が今日しかなかったから、と色々と考えてしまう。
「じゃあいっそのこと結婚する？」
「え」
「え？」
「…」
「…」
んー、と悩んだ末、助手席に座る彼が言った言葉にこの人は何を言っているんだと左を向く。
決して否定をするというか、(“それ”を)しないというわけではない。
「順序という言葉を知らないんですか」
「あ、そっか。じゃあ、だいぶ時間経ったし…同棲始めようよ」
「あー」
そうですね、と1回頷く。と言っても、ほぼ私が彼の家にお邪魔しているのにそんなに変わらないような気もする。
「その前にさ、」
「うん」
「俺、Aの家行ってみたい」
「そういえば一度もないですね。いいですよ」
「やった」
そんなこんなで、今から私の家に向かうことになった。
「女子の部屋か〜」
「女子と言われるような歳じゃないですけど」
「Aはこれから先もずっと可愛い気がする」
「なんですかそれ」
「あ、今も可愛いよ」
「…ありがとうございます」
「照れてる〜」
「事故りそうなんですが」
「助手席に座ってる俺が危ない」
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作者名：のん
| 作成日時：2023年3月11日 19時
