三十 ページ30
「A、屋上行こ!」
なんと今日、Aは俺のところには来ず帰ろうとしていた。
もう靴を履こうとしていた。危ない危ない。
俺は彼女を引き止めて、屋上まで連れて行く。
今気付いた。Aの目、正気がない。死んでる。彼女の目に俺の姿はない。
どこを見ているの?俺を見てくれない。
*
俺は屋上のところで彼女を座らせ、隣に座る。
「A、何かあった?教えて。」
グダグダしてても仕方ないので、直球で。
すると俺の言葉を聞いた途端、下唇を噛みしめた。そして、肩が震えている。
顔をしかめているので表情がわからないが、多分辛い顔だ。
「……あの、ね。」
「うん。」
「おと、うとが……じこに、あって…っ。」
「!」
精一杯振り絞った言葉。口にはしたくなかっただろう。
俺は彼女を腕の中に入れる。ぎゅっと抱きしめた。あぁ、震えている。
怖かったんだね。辛かったね。頑張ってるよ、Aは。
「おか、ぁさんが……なんっで…Aじゃなかっ、たんだろ…って……!」
「うん。」
「わたし、が……じこにっ、あえば…。」
「そんなこと。そんなことは言わないで。」
「!」
Aからそのような言葉を聞きたくなかった。
そりゃあ俺だって家族が事故に遭えば焦ってしまう。
だけど、彼女の親はどうかしている。
大事な家族だ。なのに、Aの方が事故に遭えばよかったって?
ふざけんな。そんな親、消してやりたい。Aの気持ちを知りもしないで。
俺の方が彼女のことを大事にしている。
「A、命を大切にして。まだまだ未来はあるんだから。ね?」
「…っ。」
未来、なんてそんなに遠くはない。すぐ来てしまう。
「よしよし。少しはこのままでいよっか。」
「……ありが、と。」
「どういたしまして。」
Aは俺の服をぎゅっと握る。力一杯。手が震えるくらいに。
俺はポンポンと背中まで回した手で優しく撫でた。
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作者名:ノン | 作成日時:2020年1月26日 18時