卑しき狗は笑わない 肆

佰参拾弐 体目（132体目） ページ30

〜中原さん視点〜これからほとんどずっとね




朝、
いつも通り起きるとAが一足早く起きていた。
時間は6時
まァ、少し遅く起きちまったから、
先に起きてるのも納得がいく。





「おはよう。今日は早いじゃねぇか」




いつも通りの挨拶



唯、今日は違った。





『…………』





Aがこちらを冷たい目で見ている。
色の無い、敵を見る目を俺に向けている




俺の目を捉えたまま動かない。
何も思っていない、生かすも殺すも無い
何も無い。虚無の目だ。偽物の目だ。






Aはそのまま外套を羽織り、
鞄を持った。




「仕事か。すこしくらい朝飯、食っていけよ」





ヒールの少し高い靴を履き、鞄を肩に抱える。






「おい、返事くらいしろよ」



肩を掴んで俺の方を向かせる。
こちらを向いた彼奴の顔は、目は

一つの感情を含んでいた。




《嫌い》



《怖い》



《気持ち悪い》



《人殺し……》





俺の人生で一番嫌な感情




【憎悪】




俺は悟った。
彼奴に何かあったのだと。





そうじゃなきゃ、俺に





彼奴らと同じ目を





向けるはずが無い__________






『__________邪魔だ』





俺の手を振り払い扉の先へと足を進めるA





「…………何があったんだよ」




閉められた扉を見つめてから視線を落とし
一人分しか無い靴を見る。












「朝飯、カレーだったのによ」







嫌な気持ちを押し込めて俺はテーブルに座って鈍く光るスプーンを持った。




俺の顔が、逆さになりながらスプーンに映る







「みっともねぇな…………俺」






何かが足りなかった。

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