46:揺蕩 ページ6
*
手元に届いた1枚のハガキに、私は首を傾げていた。
『この歳になって同窓会って…』
"箱根九中学校 同窓会のお知らせ"と書かれたそれは、もちろん信ちゃんの元にも届いていて、今日たまたま鍋パーティーをしていた私たちの話題になるにはちょうどよかった。
『信ちゃん、行く？』
「行かん理由があらへんしな」
そうだよねー、と返すと、Aは行かへんの？と聞き返された。別に中学に嫌な思い出がある訳ではないから、私も行くよと伝えた。
中学の頃、信ちゃんと同じクラスになったのは3年間でたったの1回。それも1年生の時だけだ。思春期真っ只中だった私たちは特に話すことなく1年を終え、2年からは別のクラス。バレー部に入っていた信ちゃんと帰宅部だった私。すれ違う日は増えるばかりだった。
同窓会といえば、最後の1年間で同じクラスだった人達と固まるのが大体お決まりで、同じ会場で開催されるとはいえ、私と信ちゃんは必然と離れることになるだろう。
そう考えると、行きたくないほど嫌ではないけど、行きたいと思うほどでもなかった。信ちゃんが行くなら行こうかな、くらい。
「中学が始まりやないけど、異性と居るとクラスの奴らが絶対からかってきたやろ」
『え？うん、そうね。だからあんまり話さなくなっちゃったんだもんね』
鍋をつつきながら信ちゃんが喋り出す。今日はぼたん鍋だ。北海道にいるころはなかなかお目にかかれなかった、猪肉を使った鍋。
猪肉を頬張り、よく噛んで飲み込んで、「美味いな」と一言挟む信ちゃんは、そのまま言葉を続けた。饒舌な信ちゃんは珍しい。
「せや。周りのそういうんが煩わしかったんやろな。でもな、もし今周りにからかわれても、俺はまんざらでもないわ」
だからクラスが離れとっても、別に一緒に居ってもええんちゃう？信ちゃんが目を細めて笑う。
途端、鍋の味がしなくなって、飲み込んだ野菜が胸の辺りに詰まるのがわかった。
予め注いであったお茶を口に含んで、この恋と呼ぶには早い苦しさを紛らわせようとした。
*
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 106人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：一二三 | 作成日時：2021年11月4日 8時
