小話:片割れの苦悩 ページ36
*
最近、俺の片割れはとある女にお熱。
そいつは北さんの幼馴染というやつらしく、片割れ──サムは、ふとした瞬間に惚れてしもたらしい。
いや、本人から話を聞いた訳やない。身内の恋バナなんて気持ち悪いだけやし。
ただ、ある日からボーっとする日が増えたり、その女の家に行くようになったり、サムがあからさますぎただけや。
そして、今日も。
「…………お前、顔ウッザいな」
何に落ち込んどるんか知らんけど、厨房に立ちながら眉間に皺を寄せ、仕込み作業をしているサムがそこに居った。
ちょこっとからかってやっても、いつものような大喧嘩にはならん。そもそもそんなことをしている暇はないと言う顔をされる。
アイツはまだ、好きな女のことを名前で呼べないでいる。
『私、あんまり頭の整理がついてないの。でも、ちゃんと考えるから。今はごめんね』
店の奥で寝転んでいると、聞こえてきた言葉。
まさか、サムの奴、告白したんか？
がばっ、と勢いよく起き上がり、閉め切った襖に耳をそばだてた。
が、聞こえてきたのは小声のお礼と、後の沈黙だけやった。
なんや、振られたんか。しゃあない、後で慰めたろ。
「サム」
「何や……その顔やめろや」
「フッフ……女に振られて傷心中なんやろ」
「聞くなやクソツム……振られとらんし」
閉店後のカウンター席で突っ伏するサムに、俺は缶ビールを1本差し出した。
まあこれでも飲み、と言うと、ウザったそうに俺を見てから、黙って俺から缶ビールを取り上げた。
静かな店内に、缶の開く音が響く。
ぐい、とビールをあおり、また首を垂らしたサムは、
「しゃあないやん……好きになったもんは」
と、息が詰まるように言った。
「せやなぁ」
「……北さんも、前田さんの事好きやねんで。敵わんやろ、これ」
「は！？あの北さんが！？！？」
そら、難儀やなぁ……と呟くと、サムは「こないだ北さんも同じこと言うてた」と少し笑った。
どうやら俺の片割れの苦悩は、思ってたより複雑らしい。
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一二三(プロフ) - 月花さん» 切ないの、好物でして……(´∀`) コメントありがとうございます、今後ともよろしくお願いします！ (2021年10月1日 8時) (
レス) id: 828f66f0f0 (このIDを非表示/違反報告)
月花(プロフ) - なんかいろいろ切ないですね……By恋愛未経験者 (2021年9月27日 6時) (レス) @page39 id: 9a5d2125ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：一二三 | 作成日時：2021年7月19日 16時
