24:心遣 ページ28
*
私は今、父の表情を窺っていた。……というのも、
「うん……ちょっと臭いなあ」
『やっぱ駄目かぁ』
猪肉を使った料理がうまくいかず、試行錯誤を重ねている最中なのである。
山の麓にいた、2匹の猪だった。春先に産まれて成長したのが、餌を求めてうろついていたのだと思う。
上手く仕留められたので、せっかくだから調理しようと思い、しかしながら猪の調理自体は初めてだった。
『下処理に間違いはないはずなんだけどなあ……』
猪は、北海道では一部の地域に生息しているものの、あまりお目にかかれない。高校時代、先生にいろんなものを食べさせてもらったけど、猪は食べたことがなかった。
料理の種類……有名なところでいえば、牡丹鍋などの作り方は教えてもらったけど、どうにも臭みが取れない。
いろいろと調べてみたりもしたが、どうしてだろう。
「まぁ食えないことは無いんだし、いいんじゃないのか?これはこれでビールに合いそうだし」
『もう!ビールに合うか合わないかじゃないの!』
試食を食べ切り綺麗になった小皿を回収し、キッチンに戻る。
血抜きは完璧にできているし、あとはほんの少しの臭みが取れれば良いんだけど。
実はこれだけ台所に向き合うのには理由があって。
『……何話してるのかと思えば、恋バナだもんなぁ』
信ちゃんと治くんを誘って線香花火をした時、私から離れた位置で2人が話しているのを見た。
やっぱり先輩後輩だなぁ、と思っていたら、実はそういうことではなかったらしい。
ふと耳に入った会話。聞くつもりなんて全然無かったのに、聞こえてしまった内容。
まさか2人とも、私のことをそんなふうに思っていたなんて知らなかった。知ってよかったのだろうかとも思う。
きっと2人は気付いていないから、私も気付いていない事にした。
だからあまり考えたくなくて、ひたすら猪肉の料理をしている。気を紛らわしたかった。
『…………どんな顔すりゃいいのか、わかんないよ』
はぁ、と小さく息をついても、私の心の中にはモヤモヤが広がるばかりだった。
*
111人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
一二三(プロフ) - 月花さん» 切ないの、好物でして……(´∀`) コメントありがとうございます、今後ともよろしくお願いします! (2021年10月1日 8時) (レス) id: 828f66f0f0 (このIDを非表示/違反報告)
月花(プロフ) - なんかいろいろ切ないですね……By恋愛未経験者 (2021年9月27日 6時) (レス) @page39 id: 9a5d2125ff (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:一二三 | 作成日時:2021年7月19日 16時