【マギ】逢いたいが情、見たいが病。【短編集】 (ページ9)

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思うに別れて思わぬに添う。【練紅明】　ページ9

溢れるほど愛しているというのに、どうしても望むままにならない。
答えは聞こえずともおのずと分かるとでもいうのだろうか。

「くだらない」

恋い慕っている相手を目の前に、別の誰かと添い遂げろと、生みの親は言った。

婚約する相手は、素晴らしいほどの権力と美貌を誇る相手だとのこと。どうせ口裏を合わせて出た嘘だろうが、そんなことを攻め立てることなど出来ない。
私だって、己のことや、想い人のことを少し盛って話したりするのだ。

好いた相手と共に生きていたいと思うことは、いけないことだろうか。
身分の違いなど痛いほどにわかっている。分かっているからこそ、余計に焦がれてしまう。

「紅明様、紅明様…お慕いしております」

爪が皮膚に食い込むほど拳を握りしめた。この胸の動悸を早めさせる皇子の顔を思い浮かべると、目の端に水が溜まる。
蓋を切って出たような嗚咽を止めることが出来なくて、醜い唸り声を上げ、その場に蹲った。

熟れたこの想いの成就は、一体いつになる？

叶わないのだろう。まして、婚約相手の決まっている私など。夜伽の対象としても外されてしまっているだろう。
顔をぐしゃぐしゃにして、名前だけを呟いた。悲痛な声だけが部屋に木霊する。

「雲雀よ、金糸雀よ。呼吸さえままならない、私の代わりにないておくれ」

外で鳴く鳥に語りかけると、一層煩く鳴き喚いた。

垂れた髪を鬱陶しいと思っても、もう掻き上げる気力などない。畳を指先で引っ掻いて、網目が解れる。心が荒れた。たった一人の人間のせいで。

温かみのある掌を思い出すたび、肌が戦慄き、涙が零れる。

微かな望みもない恋心。

どうか、貰ってくださいな。

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思うに別れて思わぬに添う。

(思いの通りに往かず、朽ちる、果てる)