【マギ】逢いたいが情、見たいが病。【短編集】 (ページ6)

今日:8 hit、昨日:6 hit、合計:24,107 hit

愛、屋烏に及ぶ。【練紅炎】ページ6

「貴方だけでなく、貴方の周りのものまでもが素敵に見えます」

溜息のように漏れる言葉は、小さな告白のようなもの。

大きな背広はかかっていなかったが、自身よりも広い、紅炎の背中に頭を預けた。

温かな体温が、微睡みへと誘ってくる。そのまま寝てしまうのが惜しくて、その背中に頬ずりをした。仄かに鼻を擽る香に、じんわりとしたものが胸に広がっていく。

「そうか」

「ええ、不思議なものですね」

否定も肯定もせず、紅炎は書物に目を走らせたままだった。それでもいい。
だが、傍にいるだけの現状で満足できるわけがない。そんな初々しい恋心なんて、とうの昔に廃れてしまった。今から何年も前、私はこの人に心を奪われたのだ。

「…ねぇ。私を側室にとってはくださらないのですか」

もう何回も保留にされてきた答え。

何度、幾度と曖昧に濁されてきただろうか。今日こそはと思っても、紅炎は私の手をすり抜けていく。さながら花弁のように、薄く纏われた麻布のように。

「…もう少し大人になってからだな」

ほら、また。そうやって、私の逃げ道を塞いでしまう。唐突に泣きたくなった。でも泣いてしまえば、全て誰かの思惑通りなのだ。きっと、どこかで私の愚図る姿を見たがっている。
勝手な被害妄想を繰り広げて、目尻に溜まった涙を引っ込めようとする。

ずたずたに引き裂かれた心臓を、幾度となく縫い合わせてきた。そのたびに何かを失ってきた。

「…………拒んでくれたら、どれだけ良かったか、」

ぎゅっと紅炎の着物の裾を握り締める。相変わらずこちらは向かない。
見えるのは、燃える炎のような赤い髪だけ。鋭い眼つきの裏腹に、儚い優しさがあると分かっているから、私は紅炎から離れられないのだ。

私の想いには、とっくに気付いているはずなのに。

いつまで経っても振り向いてくれない。

それでも、彼に関係するものなら、どんな物でも人でも愛情を持って接することが出来る。そんな馬鹿みたいなことに自信があった。

いつか叶うと信じながら、私は献身的に、この人に心を捧げるのだろう。

.

愛、屋烏に及ぶ。

(あなたのために、貴方の全てに。この愛情を差し上げます)