【マギ】逢いたいが情、見たいが病。【短編集】 (ページ5)

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鳴かぬ蛍が身を焦がす。【練紅覇】ページ5

「従者と皇子だなんて、身分が違いすぎます」

「なら逃げようよ。ここから」

手を力強く握ってくれる体温は、吃驚するほど熱かった。私が仕える主人である紅覇様は、今まで一度も見た事のない顔をしていた。
怒っているような、泣いてるような、悔しそうな。色んな感情が入り混じっているようだった。

「僕が好きなんでしょ？何で拒むのさ」

「違う、違うんです。だって私は、貴方に捧げるようなものなんて、何も、」

「金とか、そんな物が欲しいんじゃない。お前が良いんだよ」

真っ直ぐな視線が、深々と私の心に刺さってくる。
ここで彼の想いに応えてしまったら、今までの私の努力はどうなるのだろう。

いつだってひた隠しにしてきた。例え両想いであったとしても、世間は甘くない。ただの拾われ者である従者と皇子の結婚なんて認めてはくれないのは、分かり切ったことだった。
強引に結婚しても、行きつく末路は無残なもだろう。

「紅覇様。手をお引きになってください」

「嫌だ」

「お願いです。今なら後戻りできます」

「…離さないよ、絶対。だってお前、逃げちゃうでしょ」

優しく頬を撫でられるたび、熱のこもった視線を身に受けるたび、酷く胸が疼いた。

口には決して出さない。その分、深海を泳ぐ魚よりも大きな肺をもった気分になる。私の口では言わないことを、貴方は言ってしまうのでしょう。

言葉にしてしまったら、もう駄目だ。駄目なのに。今一度強く目を瞑った。

「…好きです。この想いは今も変わることはありません」

紛れもない真実を口に出した。動悸が早鐘を打って、目の裏が痛くなる。
鼻の奥もツンとして、知らずのうちに零れた涙を乱暴ながらに拭ってくれる彼に愛しさがまた募った。

「僕も好きだよ、A」

ふわりと鼻を擽る香は、百年もの月日を重ねたような甘い香りだった。

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鳴かぬ蛍が身を焦がす。

(積もりに積もったこの想い、受け止めてください)