四十二枚目 ページ4
かけられた声に目を見開く。それは彼が口にすることない言葉であったからだ。暫く考えるような仕草をして、それからぐっと下唇を噛み締め、いびつに笑って見せた。
紅炎が悲しそうに目を伏せる。男性にしては長い睫が瞳に影を落とし、やけに陰鬱に写った。
それでも沈黙を肯定ととってのか、骨ばった硬い手が頬へ伸ばされる。
それは空を切ることなく、私の肌へと触れた。
「お会いしとございました」
堰を切ったようにあふれ出そうになる衝動を無理やり押さえ込み、撫ぜられるがまま言う。
片方の頬だけ触れていた手は、何時の間にか両手になり、私の両頬を包み込む。温かくはなかった。けれど、硝子細工を扱うように優しく、ゆっくりとした動作は、私の心に温かさを染み渡らせるのには充分すぎるものだったのだ。
「A」
「はい」
「…A、」
「……お傍におります、紅炎さま」
強く引き寄せられた。厚い胸板に押し付けられ、太い腕の檻に閉じ込められる。何度も名を呼ばれ、満たされていくのがわかった。
ああ、この声色が、鼓動が、力強い眼差しが。好きなのだ。
「深くは問わん。詮索もしない。お前が戻ってきてくれたことだけが、唯一だ」
「…嬉しい、私、ずっと…」
言いかけた唇は、唐突に降ってきた接吻に塞がれた。啄ばむようなそれを受け入れ、大きな背中に手を回す。広くて、落ち着く体温だった。
じわりと涙が込み上げてきて、透明は雫は頬を濡らす。生前、このように想いを交わしたことがあっただろうか。切なさを積み上げてきたのは、私だけではなかったのだと信じたい。
互いに強く、強く抱きしめあう。もう二度と出来ないのかもしれないから。
耳にかかる吐息でさえ愛おしかった。
今一度、想いを伝えようと口を開く。今度は塞がれることはない。一語一語に心を込め、燃えるような紅い瞳を見つめる。
.
「ねえ聞いてください、私、貴方のことが」
.
「あの二人を巡り合わせたのが、我らが父だったのなら、嗚呼、なんて酷い人」
「想いは
「どれだけ言葉を紡いでも、肌を合わせても。伝えてしまえばお終いね」
玉艶がゆるく口角を上げながら、涙に濡れたような声色で囁いた。
「……幸せなんて、彼らにしか分からない定義なのでしょう」
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ゆみ - 再開されるんですね 楽しみにしています まずは受験お疲れ様でした そして御入学おめでとうございます いろいろ大変でしょうけど無理しないでゆっくりでいいので更新頑張って下さいね (2017年5月20日 11時) (携帯から) (
レス) id: a64fcc18a2 (このIDを非表示/違反報告)
(自称)一流アサヒナー(｀・ω・´)ｷﾘｯ(プロフ) - 前からずっと星屑さんの綺麗で素敵な表現や文章が好きで読ませて頂いていたので、更新再開とても嬉しいです！ これからも応援しています！ (2017年4月2日 10時) (レス) id: 29a5d6e7d9 (このIDを非表示/違反報告)
あゆむ(プロフ) - はじめまして！マギに再熱し、紅炎という需要があるのかよくわからないキャラの沼にはまってしまい、干からびそうになっていたところを助けられました…オリジナル設定も素敵ですし、文章も読みやすく楽しめます(*'ω'*)続きがあるなら私も読みたいです！ (2017年1月26日 18時) (レス) id: ca84e134e0 (このIDを非表示/違反報告)
みこと - いやー泣きました。とってもおもしろかったです！もし続きがあるならぜひ読みたいです (2016年12月10日 23時) (レス) id: fe80c87bb7 (このIDを非表示/違反報告)
ゆみ - 完結されてないなら続きが読みたいです 楽しみにしていますので更新頑張って下さい (2016年10月11日 19時) (携帯から) (レス) id: a64fcc18a2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：星屑 | 作成日時：2015年12月30日 18時
