【d!】アンモビウムを抱えた君へ 2

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こちらの真っ向からの反発を涼しい笑みによって受け流される。極め付けに、更にもう一枚の紙が柵の隙間を通り私の足元に落ちる。今度は催促するような言葉こそ発しないものの、その目線は先にも増して感情の読めない色をしていた。感情が落ち着かぬままこの目に飛び込んできたのは…”戸籍抄本”という表題と、見知らぬ人物の名前が書かれた文字の羅列。突拍子もない事により驚き続けた反動だろうか、妙に冴えた直感がこの書類の意味を察してしまう。しかしそれは、現実として理解し難い事態を意味していた。


「…まさか、これ」
「アリス・マリーゴールド…いや、マリア・サンダーソニアは世間的には死亡。そして…君は新しい名前と共に、自由に生きろってこと」
「なに、…何よ、それ……」
「…これが我々(俺達)が選択した結末(ハッピーエンド)の全貌や」


"意味が分からない"
その言葉以上に今の私の思いに適したものは無かった。精密で迅速な情報収集も、敵兵に対する処遇も、それらを受け入れる人間がいる事も…何もかもが異常の域に達しているのは明白だ。別に死を欲している訳ではないし、むしろ生き残りたいに決まっている。けれどこんな形で命を救われるなど、誰が想像できただろうか。こんな状況、簡単に吞み込めるわけがない。


「君が混乱するもの無理ないわ。いくらうちの総統が完全自由主義(リバタリアン)やからって…こんな事提案する方も、それを受け入れる方も、ほんま頭おかしいと思うで」
「……なんで、私なんかに、こんな事……」
「それは…たぶんやけど、自分の境遇と重なったんやないかな」
「…え？」


予想外の返答に思わず顔を上げ、言葉の続きを待つ。その面持ちはこの空間の暗がりと相まっているのか、先よりも影が見受けられた。


「Aちゃんの両親は彼女が幼い頃に流行り病で亡くなって、それからは祖父母に育ててもらったんや。けれど彼らもそう長く生きることができずに…十歳の頃に、家族ぐるみで親しかったグルッペンの家に養子として迎えられたんやって」
「…は？あの二人って…義兄妹だったの…？」
「ふふ、そら驚くやろうな。俺らもこの前グルッペンが白状するまで知らんかったもん。まあそれも結局離縁したから…軍に所属していた頃にはもう、ただの幼馴染に戻っていたらしいよ」

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