□ 85 ページ35
「…ここだけの話なんやけどな。しんぺいさんの話じゃ、あの毒ガスに耐えられたのは、ただ病で痛覚が鈍っていただけじゃないんやって」
「…どゆこと？」
「まぁ、正直信じられへん話なんやけど…毒物の成分を特定した後、万が一の為につって耐性つけていたらしいで。毒を毎日、少しずつ摂取して」
「……は」
「…そんな酷な事に比べたら、ワイなんてまだまだに決まっとる」
耳を疑うような話を後に、面布の奥に隠れた表情が手にとるように分かりそうやった。それもそうや。ただでさえ逃れられない死への恐怖があるにも関わらず、それを自ら招こうとしているのだ。我慢強いなんて表現では収まらない。あんなにも繊細な彼女がそれを人知れず成し遂げていただなんて…想像出来んかった。
『トントンの字って綺麗だよね』
『そうかぁ？自分じゃよお分からん』
『えー、勿体ない』
『それ言うなら…Aだって綺麗やん』
『えっ』
『ん？………あ、字の話な…！？』
『そ、そ、そうだよね〜！びっくりしたぁ、童貞が何言ってるんやろって思ったよ』
『ひ、一言余計なんよなぁ？！』
身体中を一気に駆け巡った羞恥心と、ほんのり赤く染まったAの珍しく間抜けな表情。何気ない日のことやのに、今でもよお覚えとる。それやのに、何で彼女のSOSに気づくことができなかったんやろか。何でAの事を信じきれんかったんやろか。後悔してももう遅いのは、痛いほどわかる。だけどな、それ以上にお前が苦しんでいたのかと思うと…悔やんでも悔やみきれないんや。
「…というより、俺達みんな、なんだかんだ抱え込みがちなんよな」
「そーねぇ…類は友を呼ぶっていうし」
「………今回の件が片付いたら、皆で旅行にでも行こか」
「おー、
「アホ、誰が好きでこんな面倒な事やっとんねん。ワイだって休息は必要ですぅ〜」
「あはは！でも他の連中に言わせたら、休息いうよりサボりの方が正しいと思うで？」
「たまにはええやろ…その分ツケが回ったら働いてもらうだけやし」
片付けるべき事が終わったらどうなるのかと思った時、ふと彼女の故郷の景色を見たくなった。あの綺麗な瞳に映してきたものを、ちょっとだけでも追いかけてみたい。そうしたらきっと、逃げる事なくきちんと正面向ける気がするんや。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 368人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
にゃむ吉(プロフ) - アイリさん» コメントありがとうございます。主人公の心情・状況を丁寧に表現したくこのような手法をとりました。少しでも楽しみのひとつになれたのなら幸いです… (2022年6月5日 17時) (
レス) id: ba49f73308 (このIDを非表示/違反報告)
アイリ - ちゃんと日記のとこ漢字かけなくてひらがなになっていくの好きやわ… (2022年6月4日 22時) (レス) @page20 id: 018c1614bc (このIDを非表示/違反報告)
ウイ(プロフ) - にゃむ吉さん» 了解です。意図的でしたのなら、口を挟んで申し訳ないです。これからも応援させていただきます。頑張ってください( *˙ω˙*)و ｸﾞｯ! (2022年3月19日 18時) (レス) id: 00820fe97a (このIDを非表示/違反報告)
にゃむ吉(プロフ) - ウイさん» メッセージありがとうございます。指摘いただいた内容については当初は意図した表記だったのですが、読み直すと確かに違和感もありましたので伝えたいニュアンスを含め修正しました。引き続きよろしくお願いいたします。 (2022年3月19日 7時) (レス) id: ba49f73308 (このIDを非表示/違反報告)
ウイ(プロフ) - 気になったのでご指摘させて頂きます。ps(分かりますか？)のセリフで『あり？』という物がありまして、『あれ？』では無いのかなと思いました。何か意図的にやっているなら申し訳ないですが気になったのでコメント失礼しました。今後も頑張ってください (2022年3月19日 7時) (レス) @page32 id: 00820fe97a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：にゃむ吉 | 作成日時：2021年7月16日 16時
