馳せる ページ9
幼い頃に見える世界には、ワクワクするものであふれていた。
何もかもに興味が引かれ、あれもこれもやりたくて仕方なかった。
「花火楽しかったねー！」
火をつけるとキラキラとかがやき出す。
振り回しちゃダメってことは分かってるけど、振り回さずにはいられないのだ。
だから、静かに灯が消えるのを待つ線香花火はあまり好きじゃない。
でも、君が楽しそうにしてる姿を見るのが好きだから、嫌いじゃない。
「じゃーね！」
足元に落ちていた視線を上げれば、おのずと空が映る。
花火とは違うかがやきを放つそれは、手の届かない世界。
夢中になって追いかければ、辺りは木々に覆われていて。
まだ知らない世界に飛び込んだみたいで、ワクワクが募るばかりだった。
「まあ、こんなに汚しちゃって〜。」
買ってもらったばかりだった靴は泥だらけになった。
それでも、あの時間がムダだったとは思わなくて、ふしぎと達成感を感じていた。
俺は、いつまでもこのまま過ごせると思ってた。
毎日楽しいこと、気が向いたことをして、新たな発見をして。
そんな日常が楽しくて、この世界って綺麗なんだなって思ってた。
でも、そんな日々は知らぬ間に過ぎてしまった。
学校では、これっぽっちも興味ない授業を受けさせられ、クラスではいじめが起きる。
家に帰れば親は喧嘩の日々。
勉強勉強言われるばかりで、俺のまっすぐで純粋な気持ちはとっくに消えていた。
だけど、星を見ると思い出す。
当時の記憶。
大人になるって、どういうことなんだろう。
「また、会えるかな。」
いつの間にか俺の前から姿を消していた君に。
花火の季節が来たら、また。
祭りのあと 『馳せる』
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作者名：名奈 | 作成日時：2021年5月15日 22時
