行先 ページ14
人生。
それはレールのよう。
最初から最後まで決められていると思いきや、至る所に選択肢がある。
時には、人の邪魔をしてでも進まなければならない。
なんて残酷なんだろう。
音楽の世界はとても厳しい。
デビューを掴めるのはほんのひと握りだ。
その裏には、バンドを解散して中小企業に就職した者や、ライブハウスを満席にできずとも音楽活動を続ける者がいる。
こういう現実にぶち当たると、多くの人は諦めろと言う。
彼らは、音楽に賭ける想いの違いを知らないのだ。
可哀想に。
「……くん……○○くん？」
「あ、なに、」
「どうしたのボーっとして。体調でも悪い？」
「いや、全然。」
「それならいいんだけど…。」
夢には犠牲がつきものだ。
そこに、その人の情熱が表れる。
「…あのさ、」
「何？」
「俺、バンド組んでもう3年経つじゃん？」
"夢"を選ぶか
「うん。」
"
「そろそろ、本気で挑もうと思っててさ。」
「うん。」
二者択一
「上京しようと思うんだ。メンバーと一緒に。」
「…うん。」
地元でそこそこ知名度が出てきた俺たち。
ライブをすればチケットはほぼ完売。曲数も結構増えてきて、お客さんからの評価も高い。
音楽で食っていくためには、こんな田舎にいては駄目なのだ。
「…俺が言いたいこと、分かるか？」
「……分かんないや。私、鈍感だから。」
愁いを帯びた笑顔を俺に向ける。
本当に鈍感な人は、自分で鈍感だと言わないだろう。
「…じゃあ、言うね。」
「うん。」
この先の言葉を察したAの瞳に潤いが増す。
「………俺と、別れてほしい。」
真っ直ぐに俺を見据える彼女の眼を俺も見つめ返す。
「……本気なんだね。」
俺の本気度を推察したのだろう。納得したAは俺から目線を逸らし、少し溜息をつく。
「…分かった。」
「え、」
すんなり受け入れられると思っていなかったため、間抜けな声が出る。
「でも、これだけは忘れないで。」
固唾を飲む。
「私は、バンドの…○○くんの一番の味方だから。」
またも視線を向けられる。
「上京するからには、ビックで最高のバンドになってよね！」
明るく背中を押してくれる彼女の手を離すのはとても惜しい。
今はそう言ってくれているが、俺と離れたら別の男を作るかもしれない。
それでも、これだけは胸を張って言える。
俺が、Aの一番の味方だよ。幸せにな。
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作者名：名奈 | 作成日時：2021年5月15日 22時
