快晴 * ページ11
「わあ、懐かしい！」
助手席に座る彼女が外を眺め、感嘆の声を漏らす。
やって来たのは僕らの母校。
休日とはいえ、部活や先生たちの仕事のため人が居ることが分かる。
車から降りた彼女が真っ先に向かうのは、大きな木のところ。
「ねえ。ここからよく空を眺めてたの、覚えてる？」
そんなの覚えてるに決まってる。忘れる訳がない。
僕がいつから君のことを好きなのか、知らないみたいだね。
「今日はあんま雲ないね。」
流れる雲見るの好きなんだけどなー、と零す。
そんなの当時から知ってる。彼女のことで、知らないことなど何一つないのだから。
「……お、頑張ってるみたいだねー。」
ここから見える音楽室を見て、また零す。
耳を澄ませば、今の合唱部の子たちの歌声が聞こえてくる。彼女の後輩にあたる訳だから、気になるのも仕方のないことだ。
時間はゆっくりと、でも着実に過ぎて行った。
部活の終わった子たちが帰っていく。
仕事を終えた先生たちが帰っていく。
もう、どれほどの時間をここで過ごしただろうか。
「そろそろ帰ろっか。」
そう言って、木に預けていた体を起こそうとする彼女を制する。
「どうしたの？」
彼女がこちらを見る。
いけ、いくんだ僕。男なんだからしっかりしろ。
「あの、」
「うん。」
「僕と、これからも空を見続けませんか？」
ポケットから小さな箱を取り出す。
蓋を開け、彼女に差し出す。
「Aさん。僕と結婚して下さい。」
跪いた高さから彼女を見上げると、目に涙を溜めている。
「はい。」
満面の笑顔で答えてくれたことが嬉しくて、ぎゅっと彼女を抱きしめる。
「ありがとう…。一生幸せにする。」
「うん。幸せにしてくれなきゃやだ。」
かわいいことを言う彼女と見つめ合い、どちらからともなく笑う。
幸せなオーラに包まれたまま、そっと彼女の左手をとる。
薬指にスッと通った婚約指輪が、彼女を一層魅力的にする。
「きれい…」
左手を空にかざし、光の反射を眩しそうに見つめる。
真っ青な空が、僕らを祝福してくれた。
はじまりのうた 『快晴』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：名奈 | 作成日時：2021年5月15日 22時
