第七話 ページ8
「だって〜…」
「ん、このままじゃバイ菌入るから洗うぞ。立てるか？」
「無理。」
「ったく…てか見せもんじゃねぇんだけど。早く帰ってくんない？」
そういうと文句を言うやつもいたが、バイバイ竜胆くーんなんて言って去っていく。本当にAのことどうでもいいんだな。
「ほら、足出して。」
「はーい。…いっ！」
「我慢しろ。痛てぇだろうけど。」
Aのすれた膝。汚れて血が出ている。傷、残らねぇといいけど。
「家帰ったら消毒してやる。背中乗れ。」
「ありがと、竜ちゃん。」
「本当に手のかかるヤツ。何でコケたんだよ？」
「はしゃぎすぎちゃった！」
「気をつけろよ。傷残ったらやだろ？」
「うん…」
家に帰って消毒していたら、Aが公園にハンカチを落としてきたらしい。
「あーはいはい、取りに行ってやるよ。待ってろ。」
公園でハンカチを回収していたら、木の陰から白い猫を抱っこした地味そうな女子がこっちを見ていた。
「あ、あの…」
「何。」
「Aちゃんのお兄さんですよね…」
「そうだけど？」
「Aちゃん、走ってコケたんじゃないんです。木の上にいて、降りられなくなっていたこの子を助けようとして木から落ちちゃって…」
「はぁ…？マジかよ…アイツ無茶しやがって…」
「だから、あんまりAちゃんを怒らないで…」
「そういうことかよ…教えてくれてありがとな。アイツ、多分そんなこと言わねぇと思うから。じゃあな。」
ぺこっとお辞儀をして、その子は帰っていった。
「お帰り竜ちゃん。」
「ただいま。はい、これだろ？」
「それ！ありがとう竜ちゃん！」
Aは嬉しそうに俺に抱きついた。
「別に。」
こんなこと、大したことねぇし。
俺の腕にすっぽり収まる小さなA。
もちもちとした可愛らしい肌。
細くて柔らかな髪。
無邪気に笑うその笑顔。
Aへの気持ちが日に日に大きくなっていってる気がする。その気持ちが何なのか、もう分かってる。
…分かってんだよ、そんなこと。
Aに真実を伝えるのは余りにも残酷だってことくらい。
Aが傷付くくらいなら、俺はお前とこれ以上の関係を望まない。
例えAが俺以外の男と結ばれることになったとしても。
俺はきっとAにおめでとうって言ってやるんだ。
俺はAの兄ちゃんなんだから。
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作者名：桜花 | 作成日時：2022年9月4日 18時
