第六話 ページ7
「だから…!君はAをもっと大切にしてくれ!」
ある日のことだった。家に帰ってくるとパパが誰かと何やら言い合っている声が聞こえてきた。
「…パパ?」
はっと振り返るとそこにAがいた。
「…またかけるよ。それじゃ。」
電話を切ってAを抱き上げる。
「大きい声出してごめんな。どうしたんだい?」
「パパ、大丈夫?」
「ああ。心配かけてすまないね。大丈夫。」
それ、きっと嘘なんでしょ?
だってパパ、最近元気ないもん。すっごく疲れてる。
最近あんまり来てくれることもないし、笑顔が楽しそうじゃない。
「…近々パパ達は海外に行くことにしたんだ。」
「お仕事?」
「そう。これから準備しなくちゃいけないから、また会えないね。」
「どれくらい向こうに居るの?」
「まだわからないかな。」
「そっか…」
二人の会話を、蘭と竜胆は部屋の外から聞いていた。
Aは恐らく気付いていないだろうが、あれはきっと仕事だけが理由ではないことに、二人は気付いていた。
母親がAに会いたくないから、きっと遠くに行くのだ。
父さんは母さんを一人にしたくないんだろう。母さんのことを愛してるから。でもあの人のご機嫌取りにもきっとうんざりしてる。
Aから離れられたら、それは必要なくなる。
きっと二人はこの家に戻ってこない。一緒に住むことはきっとない。年端のいかない子どもたちを置いて海外になんて普通行かねぇだろ。淡々とした、愛の薄い家族。うちはそういう家だから。
これからもいつも通り金は振り込まれて、何不自由なく生きていける。それでも、二人には分かった。
俺たちは、見捨てられたのだ。
***
「竜胆くん!大変〜!」
「さっさと出ろよ竜胆、マジインターホンうるせぇ。」
「んな何回も押さなくても聴こえてるっつーの。」
何度かAが家に連れてきた女子達だった。
兄ちゃんか俺目当てで、Aと遊んでる時に限って心底つまんなそうなツラしやがって。なら家来んなクソが。
「んだよ。」
「Aちゃんがコケちゃったの!」
「は?」
「ホラ、あそこの公園!早く行こ!」
グイグイと俺の腕を掴んでは楽しそうにキャーキャーと。
「Aが怪我してんのに嬉しそうな顔すんじゃねぇ。腕も鬱陶しいから離せよ。」
「ええ〜…」
「…いいから。」
***
「うう〜…あ、竜ちゃん…」
「オイオイ、またド派手にコケやがって…」
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作者名:桜花 | 作成日時:2022年9月4日 18時