第三十九話* ページ42
「……私の大事な人にね、彼女が出来たんだ。その人と彼女が、キスしてるところを見ちゃって、何だか寂しかったの。その人に恋愛感情を持っているわけじゃないのに……。」
ごめんねソウヤ君。その相手が自分の兄だなんて、言えないや。恋愛感情持っているわけじゃない、っていうのも実際分かってない。
もしかしたらこの気持ちは恋に似ているのかもしれない、なんて思ってしまうの。そう言ったら君はどう思うのか分からないから。
ソウヤ君は優しいからきっと否定しない。
だから真実を教えてもいいのかもしれない。
分かっているけど、それはできない。
「……辛いものを見たんだね。よく我慢したね。」
そう頭を撫でてくれると、簡単に涙が溢れきて。
兄二人に恋人が出来るようになって、急に一人ぼっちになったように感じて、寂しかった。
竜ちゃんが好き、蘭ちゃんが好き。
けれど竜ちゃんへの好きは、蘭ちゃんへの好きとはどこか違う。
でもこの感情が、本物だったら?家族に恋愛感情を抱くなんて、ありえないよ。
その先に進むのが怖い。素直になるのが怖い。
「多分その人は私よりずっと遠くにいるの。ソウヤ君、私、もうこれ以上、誰かに好意を拒まれたくないよ。」
「Aちゃん……」
「友達としてた交換ノート。その子も教えるから私の好きな人を教えてって言われた。だから書いたの。そしたらその子は……勝手にそのノートを好きな人に見せたの。他の友達が、あれ大丈夫なの?って言われて、嫌な予感がした。」
今でも忘れられない、あの光景。空き教室にその好きな人を呼んでノートを見せていた、大っ嫌いな女の子。
心臓が嫌な音を立てていて。あの時の息苦しさを、今でも覚えている。
「暫く経った後、交換ノートの中にね。私と好きな人の噂があったけど今はどうなの?って書かれていたの。どういうことか聞いたらね。私がいないとき、私がその子を好きだと言いふらされて……その好きな人はキモい、ムリムリ、だなんて言ったんだって。」
言ってる途中で私はまた泣き出してしまった。
好きだった人は私の目には格好良く映っていて、輝いていた。
その人と好きなアニメが同じで話せたときは嬉しかった。
話しかけられるたびドキドキして、話せただけで幸せだった。
小学生の時の、苦しい思い出。
はる君もその人も、もう忘れる。
彼らはソウヤ君みたいに優しくない。
竜ちゃんみたいに安心できない。
きっと、竜ちゃんに拒絶されたら、もう生きてはいけない。
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作者名:桜花 | 作成日時:2022年9月4日 18時