第二十六話 ページ27
Aと気まずくなってから数日が過ぎた。
分かってる。Aは今心を落ち着けてるってことくらい。準備してくれてるのは分かってる。
それでもやっぱり普通に話せないのは、触れられないのは精神的にキツかった。
どんどんAが遠ざかっていく気がする。
同じ家に住んでいて、一緒にいるのに。
兄貴とは変わらずだけど、俺とはぎこちない。
どうすりゃいいんだよ。
Aに嫌われたら、このままずっと話せなかったら。
それだけが情けねぇ位に、俺は怖い。
「オイオイ、竜胆どうしたよソレ。お前が殴られるなんて珍しいじゃん。」
「……別に、何てことねぇよ。」
ある日、竜胆は顔に殴られた痕を付けて帰ってきた。
珍し。いっつも無傷で帰ってくんのに。
「Aのことか?」
ずっと気がかりなんだろ?
「……!別に、何もねぇよ……」
バタン、と部屋に戻っていった竜胆。
Aも竜胆も、互いにビビりすぎだと思うけどなー。
もう後少しだけ様子見るか。
***
「!A…!」
部屋に入ろうとしてたら、名前を呼ばれて肩が跳ねる。
「竜ちゃん……」
竜ちゃんの顔に痣があることに気がついた。
「竜ちゃん、ソレどうしたの…?」
「A、俺のこと嫌いか……?」
「え…?」
「俺のこと、怖いと思うか…?」
「竜ちゃん…」
「お前に嫌われても、俺は好きだよ。お前のこと。」
そう言った竜ちゃんの顔は、とても悲しげで。
私自身のことが好きだと竜ちゃんに改めて言われたのは、これが初めてかもしれない。
ハッとした竜ちゃんは私から視線を移した。
「悪りぃ。忘れてくれ。」
「待って、竜ちゃ─」
「おやすみ、A。」
また、話せなかった。私に勇気がなかったばっかりに。
***
二人の様子が気になって聞き耳立ててたけどさ、こりゃ俺が動かねぇと解決しないっぽい。
「ったく手のかかる…。兄貴って大変〜」
何て言えば兄ちゃんこそ手かかってしんどいんだよこっちは何て返してくる生意気な弟だけど。
なんだかんだ可愛い弟と妹だし二人が気まずいと調子狂うしな。
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作者名：桜花 | 作成日時：2022年9月4日 18時
