第二十五話 ページ26
最近、竜ちゃんと気まずい。
あの一件があってから、私は竜ちゃんを避けるようになっていた。
これから先どうしよう…
竜ちゃんも気遣って、あんまり話しかけてこないし、会話したとしてもあの件の事は一切口にしない。
竜ちゃんの優しさにばかり甘えて、私は何をやっているんだろう……
***
夜、Aは眠りについた。
部屋のドアを静かに開けて、竜胆はAの前に屈んで、その頬を優しく撫でた。
最近、この時間以外、Aに近づくことすら出来ない。
こんなことになるなら、Aにあんなことを聞かなければ…傷口を抉る様に、問い詰めなければ良かった、なんて思ってしまう俺がいる。
俺だって、分かってるだろ。
言いたくても言えない辛さを。
今までだって何度も押し殺してきた。
今だってそうだ。
ずっと気を引き締めていないと、お前への想いが溢れちまう。
俺はお前の兄じゃないと叫び出してしまいたくなる。
……?
誰かいる……?
Aは夢と現実の狭間にいた。
温かい手。この手のぬくもりを私は知ってる。
きっと、竜ちゃんなんでしょ……?
ゴツゴツしてて力強い手。
ああ、震えてる。この手が、どうしようもなく辛いって言ってる。
私のせいだよね。ごめんね……。
お願いだから、もう少しだけ、待っていてほしい。
「A……?」
Aはそっと、竜胆が彼女の頬を撫でていた手を両手で包み込んだ。
「……夢でも見てるだけだよな。おやすみ、A。」
額にキスを落として、名残惜しそうに、そっとAの手を外して、頬を撫でていた手も離した。
朝、Aはいつも通りの時間に目を覚ました。
「……」
昨日、幼い頃の夢を見ていた気がする。
私の大好きな人たちの思い出の夢だった。
あんまり覚えていないけど、そこに確かにぬくもりがあったの。
変ね。夢の筈なのに。
朝になると、そのぬくもりは消えていた。
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作者名：桜花 | 作成日時：2022年9月4日 18時
