第二十二話* ページ23
「いじめっ子も認めざるを得なかったのは、私の絵だったの。私は絵を描くことだけが取り柄で、そこが唯一、私の居場所を作ってくれた。絵がずっと私を守ってくれていたの。でも、そんな特技を知らなくても、貴方は友達になってくれた。だから私は貴方にすっごく感謝してる。」
「Aちゃん…」
***
「……!!」
物陰に隠れて、二人の会話を聞いていた。
Aは俺と兄貴が年少にいる間、クラス規模のいじめにあっていたと。
俺は数日前に知った。以前Aが猫を助けたことを教えてくれた子に会って聞くと、俺らが殺した副総長の遺族に謝りに行ったのはAだということも。
何だよソレ。お前の人生ばっかじゃねぇか。辛くて悲しいことが起こるのは。もう勘弁してくれよ。
ずっと俺はAを見ているつもりでいた。
あの笑顔の下に、どれだけのSOSと涙が隠れていたんだろうか。何度、喉から助けてくれという言葉が出かけては、飲み込んだのだろうか。
Aがこの1年ぽっちでこんなに嘘をつくのが上手になっているなんて、思わなかった。
「Aちゃん、きっと今まで辛かったんだよね。俺は当事者じゃないから、君の本当の痛みは分からない。でも、君が傷付いて、心が怪我をしていることだけは、どうしようもなく分かる。大丈夫。俺は君の友達だからね。」
ぎゅっと抱きしめられたA。
ギリッ…と口の中で音がなる。
思わず出ていきそうになった。…出来なかった。
Aの瞳から溢れる一筋の涙を見たら、動けなくなっちまった。
「…ソウヤくん。」
ああ、私、この一言だけで良かったんだ。
ずっとそれだけを、誰かに言ってほしかったんだ。
Aの腕が、そっとその男の背中に回された。
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作者名：桜花 | 作成日時：2022年9月4日 18時
