第十七話* ページ18
「…」
「本当は分かってたんじゃないの…?」
おずおずと聞いてくる河田くん。分かってるよ、そんなこと。あの子、すごい我儘で、酷いの。やりたいことだけやってやりたくないことは押し付けて。
「!?だ、大丈夫…?灰谷さん…」
「大丈夫…」
「ああ、駄目だよ、そんな目ぇ擦っちゃ。目が充血しちゃうし、長くて綺麗な睫毛が抜けちゃう!」
すっとハンカチが差し出された。
「良かったら使って?」
「ありがとう…」
「灰谷さんってさ、何だかいっつも辛そうだよね。」
「え、そう!?どの辺が…!?」
「どの辺がって言われると…うーん…何だか分からないんだけどね。笑ってるのに寂しそうにっていうか…だからさっき、ウサギを抱っこした時の顔見て、こんな風に笑うんだなって思った。せっかく綺麗な顔してるのに勿体ないよ。」
「河田くん…」
「ああ!何か今の発言もしかして気持ち悪かった!?何かごめんね!」
慌てて謝る彼に、Aは首を横に振った。
「そんなことない。そう言ってもらえて、嬉しいよ。私、一生懸命笑ってたんだけどなぁ。まさか河田くんに見抜かれるなんて、思ってなかった。…そうだよ。無理やり笑ってる。学校に居るときはいつもそう。」
「灰谷さん…」
「私、皆にいっつも隠し事してる。大好きな二人のお兄ちゃんにも。無理してでも笑わなくちゃ、また心配かけちゃうから。そうしたら、本当に笑えなくなってくるの。だから、これからずっと、心の先から笑えないんじゃないかってただそれだけが…怖いの。」
「…」
初めて本音を竜ちゃんや蘭ちゃん以外の子に漏らした。
それも男の子に。
私、何でこんなこと言っているんだろう。
自分語りなんて、きっとウザいだけだわ。
それなのに、誰かに話したくて止まらないの。
そっと肩を抱き寄せてくれた河田くん。
「灰谷さんにもきっと何かあるんだよね。もし良かったらだけど、また話せない?迷惑じゃなければ、また一緒に飼育当番やってさ。」
「いいの?」
「もちろん。何だか灰谷さんって、ほっとけない。もし良かったら、俺と友達になろうよ。」
私に何の躊躇いもなく差し出された手。
家族じゃない人から差し伸べられた手を握るのは、いつぶりだろう。
「ありがとう。ソウヤくん。」
「名前…」
「この方が友達っぽくない?」
「そうだね、Aちゃん。」
校門前で携帯を弄りながらAを待つ竜胆。
来たか?
顔を上げた先に、知らない男と楽しそうに話すAの姿を見つけた。
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作者名:桜花 | 作成日時:2022年9月4日 18時