第十六話 ページ17
竜胆は少年院にいる間、ずっとAのことを考えていた。ようやく今日、Aに会える。
荷物を持って、兄貴と少年院から出所した。
ドアを開けたら、Aが飛び込んできた。
「お帰り…!!竜ちゃん、蘭ちゃん…！」
「A…ただいま。」
部屋を見渡すと、ここを出てから何も変わっていなかった。
それどころか部屋は綺麗になっていた。
3人住むには広すぎる家なのに、Aはたった一人で、こんなに広い部屋を綺麗にして、ずっと待っていたのだ。
「A。」
「なに？」
「今までごめんな。それと、ありがとな。」
「なんてことないよ！」
そうやって笑うAに、俺は安心した。
甘やかすだなんて言っておいて、甘えていたのはずっと俺の方だった。なんでもっと早く気づいてやれなかったんだろうな。
***
俺が高1、Aが中1になった。
Aは俺らと違う学校に通うようになった。
家から遠いのに良いのかと聞いたが、Aはそれでいいと言った。
***
「マジ!?灰谷さん代わってくれんの!?」
「うん、いいよ。今日は部活もないし…」
「助かるわ!ありがとー!じゃね!」
Aはクラスの子に飼育当番を頼まれて、理科室のすぐ傍にあるウサギ小屋に足を運んだ。
鍵を開けていると…
「あれ…灰谷さん?」
「あ、えと…河田くん。」
「今日当番じゃないよね?どうして?」
「ちょっと代わって欲しいって頼まれちゃって。部活もないし。ほら、やろ!」
「え、うん…」
ちょっと河田くんって、なんだか表情が怖い。いっつも怒ってるんだもの。東京卍會のメンバーだって聞いたことがある。
でも飼育当番は真面目にするし、授業だってちゃんと受けてる。不思議な子。
二人でウサギの世話をやっていくけど、河田くん、手際良いんだなぁ。
一段落ついて、一番大きいウサギを抱っこしようとしたときだった。ウサギは思ったよりも重くて、上手に抱っこ出来なかった。
「あ、危ないよ!ちょっと貸して。」
「あ、河田くん上手!」
「抱っこするときはこうやって支えて抱っこしてあげて。そうしたら大丈夫だから。抱いてみて。」
「う、うん…！」
彼と同じようにすると、上手に抱っこできた。
「河田くん！抱っこできた!ありがとー！」
「良かった。…ねえ、灰谷さん。頼まれたって言ってたよね。今日の当番本来大野さんだったのに。多分あのコ、用事なんかじゃない。サボりだよ。前もこんなこと、あったから…」
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作者名：桜花 | 作成日時：2022年9月4日 18時
