第十五話* ページ16
「…でさ、」
コソコソと聞こえてくる話し声。
クスクスと楽しそうな笑い声。きっとそれは私のことを笑っているんだよね。分かってるよ。
最近、私の近くを通る人が、あからさまに避けるように歩くの。
お兄ちゃんがいない今、私はいじめに遭っていた。
「ねえねえ、Aちゃん。」
「な、何？」
「このアイドルグループの中で誰が好き?」
「あ、私成瀬君が好きかな…」
「ありがとー！」
そう言って、その女の子はクラスの人気者の男の子の方へ行き、何やら話していた。
「この子だってさ。」
「う〜わ、マジ？成瀬かわいそ！！」
思いっきり大きな声で言われた。
わざとだ。私に聞こえるように、わざと言ったんだ。
ちゃんと聞こえてる。そうやって、私の反応を見て楽しんでるんでしょ?
こんなこともあったわ。
学校でお裁縫セットを買ったとき、同じ女の子が聞いてきたの。
「Aちゃん、何にした〜?」
「あ、水色の、フリルが着いてるやつにしたよ。」
「へぇ。ありがと！」
そしたら後ろから「流石やな！」なんて大きな声で聞こえてきた。
…やっぱり。やっぱりこうなるじゃん。答えなければ良かったと思うけど、話しかけられたら答えなきゃ。
ねえ、何がそんなに楽しいの?お裁縫セット、写真を入れて、蘭ちゃんと竜ちゃんにも一緒に決めてもらったやつなんだよ?きっとAに似合うね、って選んでくれた、私にとって特別なものなのに。
私が椅子に座ったとき、クスクス笑われた。
何?って思って見てみたら、男の子の消しゴムが置いてあったの。私はその男の子の方に消しゴムを投げ渡したけど、恥ずかしくて仕方なかった。
何でそんなことするの?何が楽しいの?
蘭ちゃんに、竜ちゃんに、お手紙を書いている時間は今まで少しの休憩時間だったのに。
そこに書いている嘘の理想と現実の差があまりにも大きすぎて、ふたりに手紙を書いている時間でさえ、私には苦しくて仕方なかった。
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作者名：桜花 | 作成日時：2022年9月4日 18時
