第陸話 ページ6
あれから私は正式に継子になり、師範の屋敷で暮らしている。
一度、師範の御父上に御会いしましたが、いい顔はされませんでした。今でも、御会いしたら挨拶はきちんとするのですが、それ以上に話したり、なにかをすることは…出来ずにいるのです。
「師範!おはようございます!」
「うむ!A、おはよう!」
「今日もよろしくお願いします…!!」
師範との稽古は楽しい。確かに厳しいけど、出来たら褒めてくれる。頭を撫でてくれる。
師範が喜んでくれる。
私が強くなれば、私も人を助けられる。それが嬉しくて、私はどんどん力を着けていった。
そのお陰で私は庚から、丁にまで階級が上がっていた。
稽古終わりのこと。
「師範!ありがとうございました!」
「うむ!御疲れ!これから任務も来るだろう!今はゆっくり体を休めなさい。」
「はい!師範、手拭い貸してください!わたし洗ってきますよ!煉獄家の皆さんにはお世話になっているので、これくらいさせてください!」
「うむ!ありがとう!お願いするよ。」
自分と師範の手拭い、それ以外にも使ったものを両手いっぱいに抱えながら片付けに行く。
廊下をパタパタと走っていると、千寿郎さんが来た。
「Aさん!後片付けなら私が…」
「私はここに置かせていただいている身なので!これくらいさせてください!おっとっと…手拭い洗ってきます!」
両手に物を抱えていて危なっかしかった。
「やっぱり私も手伝います…!」
──
「…すみません千寿郎さん…わざわざ手伝っていただいて…不甲斐ないです…」
「いえいえ!そんな。」
少し沈黙が続いた。
「私は正直、Aさんが羨ましいです。」
「えっ…?」
「本来ならば弟である私が兄上の継子になり、鍛練しなければならなかったんです。けれど、私はどれだけ稽古をしても日輪刀の色が変わらなかった。だから…」
「…!!」
ポロポロと涙を流す千寿郎さん。その小さな背中を見て、胸がぎゅううと締め付けられた。
オロオロしながらもAはそっと手拭いで顔を拭いた。
「Aさん…」
「はっ!この手拭い洗ったものでした…!すみません、すみません…!!」
「ふふっ、ふふふ…」
「!」
笑った!かわいい!!
「千寿郎さん。あなたのことを何も知らず、あなたのことを無意識に傷つけていたこと、お詫びさせてください。本当にごめんなさい…私は強くなりますから…これからもよろしくお願いします…!」
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作者名:桜花 | 作成日時:2020年11月2日 22時