十左 ページ10
脳髄に響く大音量の楽曲は、最早好き嫌い関係無く騒音と化してしまい徐々に嫌気が差す。然し眠りに擦り寄る事は出来ず、珈琲を啜りながら他の楽曲を流し始める。
日の出迄数時間もある。夜更かしをしていたチャット仲間は次々に退出していき、丑三つ時を回った頃には殆どチャットをしている者は居なかった。外部の音響を完全に遮断する為に装着したヘッドフォンを耳に押し付けながら、私はゲームのイベントを進める。時々唸るような雑音が耳に入り込んで来て気味が悪いと思いつつも、決してヘッドフォンを取り外す事はしなかった。耳朶が潰れて酷く痛む。幾度も外しかけ、睡魔に負けぬようにと添えかけた手を退かすを繰り返していれば、漸く日は昇ってくれた。
するするとベッドから抜け出して大きく伸びをする。眼球の乾きは尋常ではなく、瞼の裏に黒目が擦れるのがよく解る程だ。然し不思議な事に、昨日程の疲労感も気鬱も幾分か楽になった。頭痛と呼ぶには不明瞭な痛みを伴う不調は副作用としてあるにはあるのだが、何時も通り睡眠を摂るよりも心地が良い。
「……パソコン、ちゃんと電源も付いてないし、動いてもない」
安堵が心中を満たす。隈が出来ていないかと鏡を覗き込み、目下を確認してみれば背後から突き刺さるような視線を感ずる。パソコンが先程と変わらぬ状態で放置されているだけで、何の変哲も無い姿だけが私の視界に入って来ていた。なぁんだ、と無意識に力の入っていた肩をだらりと下ろすと、私は朝餉の準備をしているであろう母親の元へと小走りで向かう。
自室の扉を閉め、遠去かる中途に──あの忌々しい軽快なBGMが聞こえた気がしたのだった。
*
「はよ、A」
通学路で出会った男友達に挨拶を返す。快い声が喉を通って来て、其れを耳にした奴は如何したと言わんばかりの凝視をして来た。私は不敵な笑みを浮かべ、得意気に人差し指を立てながら奴に向かって言い放つ。
「今日徹夜したからな」
「何だそりゃ。──あっ」
不意に男友達が屈み込む。置いて行きそうになって慌てて引き返し、両手を動かしている男友達の目線の先を追った。使い古され薄汚れた運動靴の紐が、歪に切れてしまっている。
馬鹿、置いて行くなよ、と震える声で男友達は私に訴える。其の間は不愉快な金属音と何者かの視線がした。
*
「……何故、何故貴女は、解って下さらないのです」
斬り損なった人間に寄り添う主の姿に、付喪神は気でも狂ってしまいそうになった。
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コウ(プロフ) - 卯月さん» コメントありがとうございます！何度か読み返して、描写が上手く伝わっていないのではと不安に思っていたので、その言葉を見て安心しました。次作も頑張って更新進めたいと思います！ (2017年10月1日 23時) (
レス) id: bfc9344f18 (このIDを非表示/違反報告)
卯月(プロフ) - 面白かったです！描写が丁寧で、凄いなーとか思いながら読んでました！次作も頑張ってください！！ (2017年10月1日 23時) (レス) id: 58c246c3a9 (このIDを非表示/違反報告)
不知火 - はいっ!大丈夫です！更新頑張って下さい！ (2017年6月28日 22時) (携帯から) (レス) id: 0a98efea53 (このIDを非表示/違反報告)
コウ(プロフ) - 天宮さん» 前作からコメントありがとうございます！更新なるべく早く出来るように頑張ります！ (2017年6月25日 23時) (レス) id: 2e6af04341 (このIDを非表示/違反報告)
天宮 - うおおおおおお！新連載ですね！いつも楽しんで読ませて頂いてます。更新頑張って下さい！ (2017年6月25日 23時) (レス) id: 571fb048dc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：コウ | 作成日時：2017年6月16日 0時
