十一左 ページ11
近々定期テストもあり、原作から好んでいたライトノベルがアニメ放送開始され、私はだらしなく不眠の日々を送っていた。隈が目下に色濃く張り付き、目の表面の乾きが非常に不愉快である。其れだけでなく、悪夢を見るよりは幾分楽とは言えども、脳の働きが衰退したり集中力が切れたり、厄介なのは体育の授業で倒れ込んでしまった事であった。
図星を見事に突いて来る保険医の説教を受け流し、用事で保健室を退室した処で私は狸寝入りを止めて天井を見詰める。保健室に運ばれて数十分が経過し、微かに鼓膜を揺らしていた騒音も授業開始の合図が鳴れば付近は静まり返ってしまった。休憩時間が終わり、又授業が開始されようとしている。此の儘体調不良の振りでもして早退してしまいたい、と思っていれば、不意にがたがたと音を立てて扉が開閉する音を耳にした。慌てて布団に潜り込んでは、扉に背を向けるように体勢を変え、時々息を詰まらせたりして態とらしい鼻呼吸を繰り返す。
──物静かな室内に其れだけが響き、然し何時迄経っても保険医の足音が聞こえる事は無かった。不思議に思い布団から顔を覗かせようとした途端、遠方からはしゃ、しゃっ、と雪駄が床板を擦る音がする。聞き慣れない物音に耳を傾けていれば、時折金属音が混じり、じりじりと此方に近付いているように音が段々と大きくなっている。
はぁ、と熱の籠った息を吐く何者かの存在を認識する頃には、直ぐ傍に其れは近付いて来ていた。布団を握り締め、必死に息を潜めていれば顔面を近付け、Aと審神者名にも使用している名を小さく呼ばれた。温情の欠片も感ぜられない低声は──保険医の物ではなかった。
ゆったりとした手付きで首を撫でられる。ふるふると不本意に身体が震え出し、明らかに布団も揺すぶられて、狸寝入りも通用しない。起きているのでしょう、顔を見せて下さい、と聞き覚えのある声が優しく問い掛けてはいるのだが、私は聞き流し黙秘を続けた。
……暫くしていると、人の気配も不可解な物音も消え失せていた。ほっと安堵し、熱が籠りつつある布団の中からゆっくりと顔を出す。耳裏から垂れる汗を拭い、ふと天井を見上げる。
「あっ」
澱んだ藍の双眼と目が合った。
*
意識を取り戻した頃には、何時かに見た和室が私を見下ろしていた。星一つ無い夜空は、禍々しく光る赤黒い満月がぽつんと鎮座している。
敷かれた布団からゆっくりと身体を起こした処で、私は此れが夢である事に気付き顔を青くした。
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コウ(プロフ) - 卯月さん» コメントありがとうございます！何度か読み返して、描写が上手く伝わっていないのではと不安に思っていたので、その言葉を見て安心しました。次作も頑張って更新進めたいと思います！ (2017年10月1日 23時) (
レス) id: bfc9344f18 (このIDを非表示/違反報告)
卯月(プロフ) - 面白かったです！描写が丁寧で、凄いなーとか思いながら読んでました！次作も頑張ってください！！ (2017年10月1日 23時) (レス) id: 58c246c3a9 (このIDを非表示/違反報告)
不知火 - はいっ!大丈夫です！更新頑張って下さい！ (2017年6月28日 22時) (携帯から) (レス) id: 0a98efea53 (このIDを非表示/違反報告)
コウ(プロフ) - 天宮さん» 前作からコメントありがとうございます！更新なるべく早く出来るように頑張ります！ (2017年6月25日 23時) (レス) id: 2e6af04341 (このIDを非表示/違反報告)
天宮 - うおおおおおお！新連載ですね！いつも楽しんで読ませて頂いてます。更新頑張って下さい！ (2017年6月25日 23時) (レス) id: 571fb048dc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：コウ | 作成日時：2017年6月16日 0時
