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「さっきも言ったけどちょっとお時間いただくんで、これは奥の冷蔵庫で保管しておきますね」
そう言いながらイケメンさんが、タルトの入ったボックスを持ち上げる。
私がわけも分からないまま頷くと、彼はそのまま私の左後ろを指さした。
「そっちの、空いてるお席座って待っててくれますか？俺もすぐ行くので」
綺麗な長い指につられて振り向くと、視界に入ってくるのは、今は誰もいないイートインのスペース。
「はい、わかりました」
私の返事にまた小さく微笑んだイケメンさんは、タルトの入ったボックスを持ったまま奥へと戻っていった。
取り残された私は、言われた通りにイートインのスペースに向かう。
1番ショーケースに近い、2人がけのテーブル席にそっと座った。
今から何をするんだろうかとドキドキしながら、イケメンさんの戻りを待つ。
結局何にも教えてくれなかったし、本当になんなんだろう。
──彼が戻ってくるのは本当にすぐで、数分後、ショーケースの横からするりとイケメンさんが姿を現した。
さっきと違うのは、彼がタルトの入ったボックスを持っていないこと。
──代わりに小さな、銀色のトレーを持っていたこと。
「お待たせいたしました」
にっこり、優しい笑みを浮かべながら、まっすぐ私がいる方向へ歩いてくるイケメンさん。
彼は慣れた手つきで、トレーの上から深い茶色のケーキを下ろしてくれた。
──ふわん、鼻腔を擽る、あまーいチョコレートの香り。
「これを、食べてほしくて」
つやつやした美しい茶色の表面に、鮮やかに散りばめられた金色。
飾り気のないシンプルな見た目のそのケーキは、シンプルだからこそより美しく見えるように思えた。
「まだ試作段階で、お店では出してないやつなんですけど」
「っえ、そんなのいいんですか。私が食べて」
「もう店閉めちゃうし、お姉さん今日最後のお客様だから特別です。お客様──……女性からの意見、聞きたいし」
軽やかな笑い声をあげながら、イケメンさんが私を見る。
笑顔が多いのは接客中だからかと思っていたけれど、もしかしたら素でよく笑うひとなのかもしれない。
「感想、聞かせてくれると嬉しいです」
そうやって彼に促されるまま、私は差し出されたフォークを受け取った。
艶やかな茶色にフォークを入れて、そっと口に放り込む。
あまくてあまい、チョコレートの贅沢な甘さが口の中に広がった。
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作者名：暁☆ | 作成日時：2023年6月15日 0時
