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「えっと、ちょっとだけ、頼みたいことがあるんですけど」
イケメンさんがそう言いながら、ショーケースのすぐ横にあるレジの前に立つ。
それから私としっかり視線を合わせて、またあの柔らかい笑みを浮かべてくれた。
綺麗なぱっちりしたふたえがへにゃりと垂れて、……何と言うかこの人の笑顔は、見ている人にまで幸福感を与えてくれる。
釣られて笑っちゃうような、そんな笑顔だ。
「お姉さん、買うケーキ決まってましたか？」
「え？あ、このタルトを買おうかなって……」
「こちらですね、ありがとうございます。お家までどれくらいかかります？」
「えっと、10分もあれば着きます」
「かしこまりました」
そしてイケメンさんが流れるようにケーキを買うのに必要なことを質問してくるから、私は戸惑いながらそれに答えていく。
……え、頼みたいことって何なんだろう。
これじゃあ私普通にケーキ買い終わって、帰っちゃうけれど。
「610円頂戴いたします」
イケメンさんがそう言いながら、お金をやりとりするトレーを差し出してくる。
610円、と私が呟きながら財布を出したところで、彼はチラリと後ろを向いた。
──それから本当に突然、グッとこちら側に身を乗り出す。
「今からちょっとだけお姉さんの時間いただくので、ケーキ代、500円で大丈夫です」
そうしてそのままひそりと、低い声で囁かれた。
吐息混じりの掠れた囁き声に、思わず私の心臓はどくりと跳ねる。
「勝手なサービスなので、内緒にしといてくださいね」
イケメンさんの長い人差し指が、そのカタチ良い唇にそっと当てられた。
にこ、そんな音がしそうなほど綺麗に笑った彼が、悪戯っぽく首を傾げる。
「っ、や、でも、」
「いいから。ほら、うらたさん──……さっきの店員にバレたら大変だから、急いで」
焦って断ろうとした私を、イケメンさんはやんわり、でもしっかりと止めた。
有無を言わさないその口調に負けて、私はお財布の中から500円玉だけを出す。
「本当にいいんですか」という言葉は、あまりに彼が満足そうに微笑んでくれるから、そっと飲み込んだ。
「……あの、それで、頼みたいことって」
イケメンさんがタルトをボックスに入れてくれるのを見ながら、恐る恐る聞いてみる。
彼はテキパキ慣れた手つきで作業を進めながら、私を見て柔らかく微笑んだ。
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作者名：暁☆ | 作成日時：2023年6月15日 0時
