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「──うらたさーん、」
こってりしたチョコケーキなんかが食べたいなぁ、と悩んでいたところで、店員さんが立っているさらに奥から声が聞こえてきた。
これも男の人の声で、低めの心地良いトーンだ。
うらたさん、と呼ばれた店員さんがパッと後ろを振り返る。
「すみません、ちょっと奥行きますね。決まったら声かけてください」
それから私にニッコリ可愛い笑顔を向けて、パタパタ奥に戻って行った。
なんだよ、なんてちょっとぶっきらぼうな声が小さく聞こえてきたから、やっぱり私に向けていた爽やかボイスは作ったものなんだなぁと思う。
……それにしてもどうしようかな。
チョコケーキが食べたいけれど、残念ながらショーケースの中にはもう残っていない。
グレープフルーツのタルトか、真っ赤な苺と真っ白な生クリームが綺麗なショートケーキか、いろんなフルーツたっぷりのフルーツケーキ。
それからケーキじゃないちょっとしたスイーツが、端の方に少しだけ残っている。
……うん、やっぱりさっきうらたさんが紹介してくれた、グレープフルーツのタルトにしよう。
そう決めてショーケースから顔を上げたそのとき、奥からちょうど男の人が出てきた。
──うらたさんではない、でもとっても顔の整ったイケメンさん。
うらたさんは白いコックコートだったけれど、この人のは黒だ。
ぱっちりふたえに泣きぼくろが印象的で、……あ、銀色の名札には『TSUKISAKI』って書いてある。
うらたさんが緑のラインだったのに対して、この人のは紫だ。
店員さんによって色が違うのだろうか。
「お姉さん、チョコレート好きだったりしません？」
そうやって考えを巡らせていると、そのイケメンさんが突然そんなことを聞いてきた。
思わずえっと声が出て、それから私は小さく頷く。
今もチョコケーキが食べたいなって考えていたし、チョコレートは昔から大好きだ。
「好き、ですけど……」
私の答えに、イケメンさんがパッと破顔する。
整った顔がふにゃりと笑顔の形になって、その不意打ちに私の心臓は思わずときめいた。
「よかった！な、お姉さん、この後ちょっとだけ時間ありますか？」
それから目の前のイケメンさんが、キラキラした瞳で尋ねてくる。
──いったい突然何なんだろう。
とりあえず今からは家に帰るだけだから、私は小さく「大丈夫です」と頷いた。
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作者名：暁☆ | 作成日時：2023年6月15日 0時
